2022.04.28

「コロナで引退レースもできずに陸上生活が終わった」。学生時代を不完全燃焼で終えた女性が”スパルタンレース”にかける夢

  • 石塚 隆●取材・文 text by Ishizuka Takashi
  • 田中 亘●撮影 photo by Tanaka Wataru

世界各国で大会が開催されている世界最高峰の障害物レース、その名も「スパルタンレース」。その過酷な競技で世界に挑んでいる女性がいる。陣在ほのか、23歳。彼女が日頃、トレーニングを行なう横浜のジムを訪ねた。

陸上からスパルタンレースに転向し、世界上位を狙う陣在ほのか陸上からスパルタンレースに転向し、世界上位を狙う陣在ほのか この記事に関連する写真を見る

過酷なレースに挑んだ理由

「オールマイティーに何でもできる強い選手になりたいんです。目指すは唯一無二のオールラウンダーです」

 まぶしいほどの笑顔を見せ、そう語るのはスパルタンレースで活躍する陣在ほのかだ。体は決して大きくないが、彼女の言葉や振る舞いからは、その肉体に抑えきれない躍動を宿しているのを感じられる。

 スパルタンレースと聞いてピンとくる人はさほど多くないだろう。アメリカで生まれ、日本では2017年にレースが初開催された新興のスポーツである。特徴は各カテゴリーで5〜21㎞のランに加え、20〜30個の障害物を超えていくタフさが要求されるレースであること。泥まみれでほふく前進することもあれば、有刺鉄線をくぐり、炎を跳び越え、ロープによじ登り、壁を乗り越え、10㎏以上の重りを抱え走るなど、過酷きわまりないことから"ランニング界の格闘技"とも呼ばれている。

レースでは炎を飛び越える障害物も。アブダビで開かれた世界選手権にてレースでは炎を飛び越える障害物も。アブダビで開かれた世界選手権にて この記事に関連する写真を見る 砂漠に設置された有刺鉄線をくぐるコース砂漠に設置された有刺鉄線をくぐるコース この記事に関連する写真を見る 10kg以上ある重りを担いで歩く。横須賀で開かれたレースにて10kg以上ある重りを担いで歩く。横須賀で開かれたレースにて この記事に関連する写真を見る  昨年12月に開催された世界選手権(アブダビ)に日本代表として参加した陣在がスパルタンレースに取り組み始めたのは2020年の夏。それ以前は学生で、陸上の800mの選手をしていた。高校時代は日本選手権に出場するなど成果を残していたが、その後、日本体育大学に進むとケガやコンディショニング不良、さらにコロナ禍もあって思うような選手生活を送れずにいた。

 そんな時に出会ったのがスパルタンレースだった。

「コロナで引退レースもできずに陸上生活が終わってしまった感じだったんです。なにかもう少し自分でできるんじゃないかって、最初はクロスフィットをやろうと思ったんですけど、ジムでスパルタンレースのことを知って、もともと陸上の選手ですし、こっちのほうが向いているんじゃないかって」

 完全燃焼できず、くすぶりを抱えたまま終焉(しゅうえん)してしまった陸上人生。そしてスパルタンレースとの偶然との出会い。陣在の血はたぎった。

「楽しいだけじゃ終われないというか、自分自身を追い込むのが好きだったし、おもしろそうだなって素直に思ったんです。走るだけではダメだし、障害を越えるために体を鍛えるだけでもダメ。総合的な要素が必要になってくるのがすごく新鮮だったし、この競技の魅力的なところだと思いますね」