渡部暁斗が「これはもらったな」と感じた大ジャンプ。インフル感染を機に消えた迷い、五輪でのメダル獲得へつながった (4ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

【これまでにないプレッシャー】

 しかし、五輪直前のW杯総合ランキング2位で臨んだソチ大会。走りにさらなる自信をつけ、普段どおりのジャンプをすれば走りで巻き返して表彰台へ上がれる手応えもあった。周囲の期待もあり、渡部は「これまでに感じたことがないようなプレッシャーがあった」と話している。

「僕の気持ちとしては楽しくてこの競技をやっているんだし、技の追求や研さんが一番の目的なんです。でも、結果を出したことで注目されるようになり、金銭面や用具提供などでサポートを受けるようになった。JOC(日本オリンピック委員会)のマルチサポートも受け、日本スキー連盟の特A指定になって遠征にも出させてもらっている。そういうスポンサーの存在やテレビ、新聞の取材を受けることも、結局は期待されているということになるじゃないですか。期待に応えなければいけないんじゃないか、と考える時期もありました。僕が競技に対して思っていることとは違うところでのプレッシャーがすごくあったので、それは正直苦しかった」

 プレッシャーや苦しさがありながらも渡部は、淡々と自分のやるべきことをして銀メダルを獲得した。フロックではなく、本当に自分の手で勝ち得たメダルだと言える。

 ソチ五輪での銀メダル獲得に、「自分がやるべき仕事を果たしたような安堵感もある」と話した渡部。ソチ五輪はメダルひとつに終わったが、その後のW杯でも結果を出し続け、2011−2012年シーズンから8シーズン連続でW杯総合3位以内を堅持。2018年平昌五輪のノーマルヒルで銀メダルを獲得し、そのシーズンは念願のW杯総合1位も手にした。

 そして5回目の出場となる2022年北京五輪へ向けては、「まだ獲っていないという意味ではすごく興味がある」と、五輪金メダル獲得を目標にする意欲を見せている。

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