渡部暁斗が「これはもらったな」と感じた大ジャンプ。インフル感染を機に消えた迷い、五輪でのメダル獲得へつながった
<冬季五輪名シーン>第7回
2014年ソチ五輪 ノルディック複合・渡部暁斗
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いよいよ2月4日からスタートする北京五輪。開幕を前に、過去の冬季五輪で躍動した日本代表の姿を振り返ろう。あの名シーンをもう一度、プレイバック!
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【何か持っている】
「何か持っているんですかね」と言って、渡部暁斗はほほえんだ。
2014年2月12日に行なわれた、ソチ五輪ノルディック複合ノーマルヒル個人。ロシア・ソチに入ってから3日間のジャンプの公式練習では、9本すべてで5位以内に入る好調ぶりを見せていた渡部だが、試合前の試技では97.5m。距離点とウインドファクターを合わせた得点は11位にとどまった。それでも、ソチ入り後のジャンプは、助走姿勢での尻の位置を1〜2cm修正するなど、細かなポイントを少し意識すればいいだけの状態まで仕上がっていて、不安はなかった。
そのあとの本番では、追い風0.29mの厳しい条件ながら100.5mを飛び、飛型点もジャッジ5人中3人が20点満点の19点を出すジャンプ。それまでトップだったエフゲニー・クリモフ(ロシア)を、飛距離をタイム差に換算すると21秒突き放し、ライバルのひとりである前季世界選手権3冠のジェイソン・ラミーシャプイ(フランス)には25秒差をつけた。
「試技のジャンプは助走の滑りがしっくりきていなかったが、しっかり修正したら自然にうまく飛べた。空中姿勢と着地には自信があるので、"これはもらったな!"という感じでした。ソチへ来てから一番いいジャンプだったと思います」
最後に飛んだW杯総合1位のエリック・フレンチェル(ドイツ)が103mを飛んで渡部は得点を上回られたが、向かい風の減点もあったためにその差は1.5点。後半の距離(10km)はフレンツェルと6秒差でスタートと、メダル獲得の可能性を大きくした。「何か持っているかも」という言葉は、本番でそうした大ジャンプを飛べたことを示しているのだ。
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