ウインドサーフィン須長由季、9年越しのリベンジへ。「五輪の借りは五輪でしか返せない」 (4ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Kyono News

 須長にとって、東京五輪は2度目の五輪になる。初出場となった2012年ロンドン五輪では思うようなレースができず、結果は21位に終わった。

「ロンドン五輪の時は、完全燃焼できなくて、こんはなずじゃなかったっていう思いで終わりました。その悔しさからリオ五輪を目指したのですが、予選で敗退し、出場できなかったんです。その時、そろそろ年齢的にやめてもいいかなって思いました。でも、東京五輪が決まっていたので、やはりそこを目指さないで指をくわえてみているのは自分らしくない。五輪の借りは五輪でしか返せないので、これはやるしかないと東京を目指しました」

 須長は、それから東京五輪に向けて新たなスタートを切った。国内では例がないという専属のコーチをつけたのは、その決意の表れのひとつでもあった。

「国内の女子でコーチをつけているのは私だけですね。マイナースポーツですし、資金的に大変なのでコーチをつけてまでやる人はいないんですけど、海外ではコーチが当たり前についているんです。東京五輪を目指すのであればしっかりと準備したいですし、そうじゃないと世界で勝てないんですよ。実際、プラス面ばかりです。かつて北京五輪を争ったライバル(小菅寧子)がコーチなので、私のウィークポイントとか全て知っているんです。練習の内容の濃さに加え、レースでは客観的なアドバイスをくれるので、すごくありがたいですね」

 須長にとっては、ホームとなる日本の海面で練習しながら五輪を迎えることができるのも大きい。ウインドサーフィンは、風の強さ、風向き、潮の流れなどゲレンデの特徴を知っていたほうが有利なスポーツだ。そこで練習ができて、慣れることは大きなアドバンテージになる。ちなみに東京五輪のレース海面は、江の島沖になる。

「私のホームゲレンデの津久井浜はサイドショアで浜から見ると常に横から風が吹いているので、すごく環境的にいいんです。でも、江の島は、波が高いですし、潮の流れも激しい。風も南風の時は太平洋から大きなうねりとともにやってきますし、北風だと建物を越えて吹いてくるので風の向きがいきなり変わったりするんです。正直、けっこう難しい海面ですね」

 レース期間は1週間ほどあるので、その間、どんな風が吹くのかわからない。逆に風がまったくない可能性もある。そういう時は、セイルを20分以上、漕ぎ続けてレースをするので体力&持久力の勝負になる。そうなるとパワーを活かせる海外選手が強風同様に有利な展開になる。

「欧州の選手のほうが今は力が上かなって思います。でも、レースは1回だけではなく、コンスタントにいい成績を収めないと上位には食い込めないので、そこが難しいところですし、チャンスでもあります。私は微風より強風のほうが得意です。体格を活かしてスピードが出せますし、性格的にもおおざっぱなので、いっちゃえーって感じのほうが早いんです(笑)」

 ウインドサーフィンは、7月25日、江の島沖でレースがスタートする。ロンドン五輪から9年、借りを返す時がやってくる。

「東京五輪は、最終日にトップ10しか出られない決勝があるので、まずはそこに出場すること。そして、過去8位内に入賞した日本人選手がいないので、それをクリアしたい。その上で、いい色のメダルを獲りたいですね。江の島で、毎日コツコツと自分にしかできないことをやってきたので、それをとにかく発揮する。1年延びた分を爆発させるしかないなって思っています」

 江の島のご祭神である宗像三女神は「芸事の上達」「海上の交通安全」「知恵の神」などにご利益があるという。須長は、ここまで地道に努力を重ねて、五輪に集中し、ウインドサーフィンに全てを捧げてきた。東京五輪、ここ一番の大事なレースでは、江の島の女神が須長に神風を吹かせてくれるはずだ。

FMヨコハマ『日立システムズエンジニアリングサービス LANDMARK SPORTS HEROES

毎週日曜日 15:30〜16:00

スポーツジャーナリスト・佐藤俊とモリタニブンペイが、毎回、旬なアスリートにインタビューするスポーツドキュメンタリー。
強みは機動力と取材力。長年、野球、サッカー、バスケットボール、陸上、水泳、卓球など幅広く取材を続けてきた二人のノウハウと人脈を生かし、スポーツの本質に迫ります。
ケガや挫折、さまざまな苦難をものともせず挑戦を続け、夢を追い続けるスポーツヒーローの姿を通じて、リスナーの皆さんに元気と勇気をお届けします。

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