【体操】有言実行の金メダル。「新しい歴史を作った。そして東京へ」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

 最後のゆかの演技を終えた内村航平の顔に、喜びの色は見えなかった。疲れ切った顔に浮かんでいたのは、ホッとしたような安堵の表情だけだった。

 8月8日の体操男子団体決勝。5種目目の鉄棒を終えた時点で、日本の得点は226.895点。2位のロシアには0.208点差をつけ、ライバルと見られていた3位の中国にも0.739点をつけていた。

全員満面の笑みで表彰台に上がり、喜びを爆発させた全員満面の笑みで表彰台に上がり、喜びを爆発させた そんな状況で臨んだゆかで、日本は3人の合計が47・199点の高得点を出した。ロシアがゆかと中国は鉄棒の演技を残していたが、点差を考えると、この時点で日本の優勝はほぼ確実になっていた。

「喜びより、もう疲労感しかなかったですね。試合をやる前から最後のゆかが絶対にしんどくなるとわかっていたので、どうやったら最後までできるかを考えて、鉄棒が終わった瞬間から気持ちをゆかに切り換えて考えていました」と内村は振り返る。

 決して日本は、決勝まで順調ではなかった。各選手が「優勝するためにはトップ通過が第一条件」と話していた6日の予選では、内村も鉄棒で落下したのを含めて、田中佑典や白井健三などもミスを連発する展開になって4位。そのため、決勝はやり慣れているゆかから始まるローテーションではなく、あん馬から始まり、次はつり輪という、日本が得点を伸ばせない種目から始まり、最後には体全身への負担が大きいゆかが待っているという厳しいローテーションになってしまった。

 そのうえ決勝本番では、最初の内村が予選の得点を上回る15.100点を出しながらも、2番手の山室光史が終盤に落下するミスが出てしまった。不穏な状況に、見ている側の雰囲気は一気に重苦しくなった。

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