【体操】田中理恵、激痛を抱えながら笑顔でいられたワケ

  • 矢内由美子●文 text by Yanai Yumiko
  • photo by JMPA

プレイバック ロンドン五輪/女子体操団体・個人総合

腰に痛みを抱えていながらも「夢だった」五輪の舞台で精いっぱいの演技を披露した田中理恵。腰に痛みを抱えていながらも「夢だった」五輪の舞台で精いっぱいの演技を披露した田中理恵。「諦めないでここまでやってきたから、この舞台に立てた。オリンピックを終えて、今、感じていることは、諦めない気持ちの大切さ。ミスは出たけど、今できることを必死にやりました。悔しさはもうありません。今はすっきりした気持ちです」

 ロンドン五輪女子体操。白と黒と赤を織り交ぜたコスチュームを身にまとい、田中理恵は舞った。

 団体総合予選、団体総合決勝、そして個人総合決勝。すべての戦いを終えてから一夜明け、25歳の"遅咲き"のヒロインは、心地よい疲労感と達成感に包まれていた。

「最初で最後」と位置づけて臨んだロンドンの夢舞台。その余韻にやさしく包まれていた。

 笑顔の裏に、人知れぬ痛みを抱えながらの戦いだった。大会前の6月中旬。合宿中に腰に痛みを覚えた。

 高校時代に経験していた腰椎分離症(ようついぶんりしょう)の再発。合宿中に行なった試技会では団体メンバー5人の中で最下位に沈んだ。

「不安はありました。でも、自分にできることをやるしかない。ノーミスで演技すること、そして、練習どおりのいい演技をすべて出しきること。それだけを考えてやりました」

 ロンドン五輪の団体総合予選では4種目中3種目でミスが出た。腰への負担が大きいゆかは演技の難度を下げざるをえなかった。だが、それでもどうにか減点を最小限にとどめ、団体予選6位で決勝進出。個人総合決勝にも進んだ。

 そうして迎えた個人総合決勝。予選の2日後に行なわれた団体総合決勝で8位に終わっていた田中は、体操人生の集大成としてロンドン五輪最後の舞台に立った。

 1種目目は得意のゆか。右手をあげて「ハイッ!」と笑顔で審判に演技開始の合図をした。妖艶でありながら爽やかさを併せ持つ表現力が田中の持ち味だ。映画『ピンクパンサー』と『007』のテーマ曲に合わせ、精いっぱい舞った。最初のシリーズでラインオーバーするなど、ミスはあったものの、存在感を十分に発揮した。

 2種目目の跳馬では着地で乱れてしまったが、3種目目の段違い平行棒ではマロニーなどの移動技もしっかり決めて14.500というまずまずの点を出した。最後の種目は平均台。ここでは13.700の得点を出し、すべての競技を終えた。

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