「しょまりん」が公式戦デビュー 本田真凜・宇野昌磨組のストーリーが動き出した (2ページ目)
本田は感慨深げに言ったが、その心の作用はふたりで相応の練習を積んできたからだろう。次の宇野の言葉がそれを裏付けていた。
「点数を競い合うスポーツで、そのための日々の練習なんですけど...日々の練習で"後悔しない"というところまでできていました。"こうしておけばよかった"と振り返っても思わないほどに」
そしてリズムダンス、全体の5組目に登場したしょまりんは、赤と黒の衣装で挑んでいる。
冒頭、『ポエタ』の叙情的な旋律が流れると、宇野が本田を抱き起こすようにして演技は始まった。スパニッシュギターの律動で、サーキューラーステップを皮切りに、ツイズルやローテーショナルリフトなどひとつひとつのエレメンツを大きなミスなくやり遂げた。特筆すべきはクリエイティブダンスエレメントで、レベル4を取って上位陣と遜色ない出来を見せている点だ。
演技直後、ふたりは氷上で見つめ合って充実感を滲ませた。自然に溢れ出したような笑顔が印象的だった。58・68点で7組中4位。デビュー戦では上々のスコアだ。
試合後のミックスゾーン、本田は凛とした声で振り返っている。
「自分たちがやってきたことを出せて、初戦としては良かったと思います。久しぶりの試合で、たくさんの注目のなか、いろんな緊張があったはずで。練習を信じて、落ち着いて滑り切ることができました」
一方、宇野は毅然としてこう言い放った。
「今日までよく頑張ったなって思います。注目度が大きいからこそ、期待も、反響も、評価も、いろんな声もあるけど...マジ、どうでもいいなって思っています(笑)。振り返ると"ああ、できたよね"というところはあるかもしれないですが、終わって一番初めに出た感想が"よく頑張ったな"だったんで。(シングル時代)自分の演技で感動とかなかったんですけど、それが感じられるのはひとりじゃないから。この場で失礼な質問が来たら反論するくらい頑張ってきたので、そこだけは(本田に)どんな声があっても誇りに思ってほしい」
彼は語気を強めて言った。すると、隣にいた本田が「大丈夫だよ、(記者など)皆さんめっちゃニコニコしているから」と場を和らげた。ふたりはそうやってバランスをとりながら、演技を深めていくのだろう。始まりの一幕に過ぎないが、幕は上がったのだ。
本田はフリーダンスに向け、すでに気持ちを切り替えていた。
「今日のリズムダンスで出た点数によって、1日で何かを変えるわけではなくて。やってきたことを皆さんにお見せしたいです。いろんな意見は聞こえてくるだろうけど、やってきたことを信じて。氷上にいる私たちは、それぞれスケートが好きだし、これからふたりの強みを活かせるようなスケートを見せられるように」
そして宇野は確信を込めて言った。彼の信条は常に「練習」にあるのだ。
「続けるのが難しいくらいの内容の練習をしてきて、これを続けられたら自信を持って『アイスダンサーになれる』と言えるでしょう。これからこうやっていろんな大会に出るんだと思いますが、その最初の大会、最初のリズムダンスは一回きり。点数とかではなく、"今日はよく頑張ったね"という気持ちは絶対に変えたくありませんね」
たった3分間のため、心身を削った日々は"生まれたてのアイスダンサー"の血肉になっているはずだ。
11月1日、しょまりんはフリーダンスに挑む。ヴィヴァルディの名曲『四季』をどう演じ切るか。それは12月の全日本選手権にもつながっている。
著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
2 / 2

