「しょまりん」が公式戦デビュー 本田真凜・宇野昌磨組のストーリーが動き出した
本田真凜・宇野昌磨組、緊張の公式戦デビュー photo by Sunao Noto(a presto)
「すごい列。今日は何かあるの?」
「スケートらしいよ」
早朝、バスの運転手同士のやりとりが非日常を物語っていた。
満員に膨れ上がったバスはごとごとと走り出し、重さに耐えられないように停留所に着く。車内は立錐の余地なく、一般客は後ろの扉から降り、前扉から入って精算しないといけないほどだった。バスは終点で、熱を帯びた人々を一斉に吐き出した。バスはそうやって次々とやって来て、同じことを繰り返していた。
地方の小さな会場は、ふたりの演技が始まる頃には満席になった―――。
10月31日、前橋。東日本フィギュアスケート選手権兼全日本フィギュアスケート選手権大会アイスダンス予選会で、本田真凜、宇野昌磨(ともにトヨタ自動車)のカップルが公式戦で初舞台に立っている。どちらもフィギュアスケート界の人気者で、デビュー前から「しょまりん」というニックネームが冠せられていた。ふたりともシングルは引退したが、アイスダンスという異なる種目で「オリンピックを目指す」と現役復帰を果たしたのだ。
それはひとつのサプライズだった。可憐な容姿の本田はタレント活動でも人気を博し、シングル時代は世界王者になった宇野もゲームやSNSで寵児になり、アイスショーの座長として活動を広げていた。そのなかでお互い競技者に戻ることはリスクもあった。アイスダンスは精緻さや調和が求められ、シングルとは別物。その挑戦を理解されない場面に遭遇することもあるだろう。
一方で、失う可能性がある挑戦だからこそ、人々は共感や物語を感じる。
「しょまりん、ガンバ!」
5分間練習では、客席のあちこちからふたりを励ますような声援が飛んでいた。必死に背中を押すようだった。何かを託していた。
本田は、緊張する自分を乗り越えるイメージトレーニングもしていたと言う。
「公式練習の2週間前から緊張し始めました。ひとりじゃないっていう心強さで、お互いが理解していても、逆に"自分のミスで悔いが残る演技をしたくない"という緊張もあって。(演技前に)名前をコールされたとき、緊張するだろうなと思っていたので、コールされたところからのシミュレーションを何十回としてきました。お客さんやカメラを想像しながら。ただ、それで出た瞬間、大勢の方がいらっしゃっているのを見て、不思議と落ち着いて"よかったな"と始まる前に実感できたんです」
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著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

