坂本花織も「人として尊敬」 GPファイナルを制したアリサ・リュウは「シン・天才」 (3ページ目)
【坂本花織も「人として尊敬」】
"自分に勝つ"というアプローチでは、日本人選手は克己心において抜きん出ている。ただ、リュウはもともと勝負の因果に収まらず、自己表現を楽しんでいるように映った。
「つねに呼吸していることで、自分の動きのすべてをつかさどることができました」
彼女は言ったが、安定した呼吸をすることで平常心の演技ができたという。体と心はつながっている。シン・天才の領域だ。来年2月、ミラノ・コルティナ五輪も万全に映るが、本人にとっては別の話のようだった。
「今日の演技は自信を持ってできましたし、前向きさも感じました。ただ、オリンピックに向けてはいろんなことが起こり得ます。これから国内選手権も待っていますし、体力も維持したい。今日はすごく気分がいいですが、明日はそうなるかわからないので」
そう言ったリュウは、解き放たれた演技が簡単ではないことをわきまえているのだろう。千葉も、坂本も、ほとんど失敗がないジャンプでミスをしたように、どれだけ練習を重ねても一瞬でふいになるのが、フィギュアスケートというスポーツである。制御はできない。そのうえでリュウは因果に収まらず、向き合っているのだ。
会見終盤、隣に座っていた坂本が、リュウの冒頭の発言について問われていた。
「こういう選手(リュウ)がフィギュアスケートには必要なんだなって思いました。自分には、とてもそうは思えない。どこかで安全地帯にいたいっていうのがあるので。ただただ、すごいというか、選手としても人としても尊敬する気分です」
それは生き方の違いで、それぞれの正義、人生、業のぶつけ合いが、リンクで見られるのがフィギュアスケートなのではないか?
来年2月、五輪でリュウは"楽しむ気配"を失わないでいられるのか。それは誰かとの戦いではない。
著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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