宇野昌磨が引退「フィギュアスケートは性に合っていた」内向的な少年から笑顔の王者へ
宇野昌磨 引退会見 後編(全2回)
【鮮明に残る競技人生の思い出】
ーー現役時代を振り返った時、のちのち思い出すだろう風景とは?
5月14日、都内での現役引退会見で、宇野昌磨はその問いに壇上でこう答えている。
「(2022年に)初めて世界選手権を優勝したあとのステファン(・ランビエールコーチ)の喜んでいる姿ですね。自分にとって、鮮明に記憶に残る思い出になると思います」
引退会見で競技生活を振り返った宇野昌磨
その証言は、宇野という競技者の本質を表わしていた。感謝の気持ちはいかにも彼らしいが、信頼する恩師が心から楽しそうにする姿は、彼自身をも映す鏡だったのではないか。
〈フィギュアスケートを楽しむ〉
それを徹底的に追及することで、崇高なまでに王者だった。
弾けるような笑顔が忘れられないーー。
2019年12月、全日本選手権で宇野は錚々たるライバルたちを打ち破り、頂点に立った瞬間である。彼自身の表情に、「誰にも負けない」という猛々しさや物々しさはなかった。
むしろ子どものように無邪気に演技に没頭し、その出来を観衆と一体になって楽しんでいた。取材エリアでも、表情から笑みがこぼれるのを抑えきれないほどだった。
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プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。