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宇野昌磨、判定基準のゆれに折り合いをつけ全日本へ「ジャンプも結果を求めるのには必要」 (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

【レジェンドに並ぶ6度目の全日本制覇へ】

「(大会前の仕上がり具合は)すごくよいわけでも、悪いわけでもないですね。あとは試合でどうなるかって感じで」

 宇野は全日本の高揚感を深いところに沈めるように、淡々とした調子で返している。シャツの上にグレーのパーカーを着込み、ファスナーを上まで締め、いつものように手を後ろで組んで次々に質問を受けた。

「一日も無駄にしないような練習はしてきたつもりです。いい時、悪い時とあって、試行錯誤のなかで今日に至るというか。同じグループの選手たちはいい感じで仕上がっていました。例年よりもジャンプの調子もよさそうで、難しい戦いになると思います。全員が最善を尽くし、いい戦いをして、自分もいい順位をつかめたらうれしいな、と」

 そう語った宇野は、競技者として戦い方をアジャストさせている。

 この日の練習、彼はジャンプを積極的に跳んでいた。曲かけ練習では4回転フリップ、4回転トーループ+3回転トーループ、トリプルアクセルを成功。3本のジャンプを入念に跳び、精度を高めていた。リンクサイドで動画を確認しながら、ジャンプのディテールに取り組んでいるようだった。

「GPシリーズを終えて、競技でやっていく以上は、ジャンプも結果を求めるのには必要になるな、と。表現を頑張りたいんですけどね。(結果的に)前よりもジャンプの比重が増えて、だからこそストレスを感じることも多くなりましたが」

 宇野は、正直にそう明かしている。ジャッジにも折り合いをつけて戦う準備はできているのだろう。

「自己満足」

 シーズンのテーマをそう掲げていたし、そこに揺らぎはない。ひたすら自らの演技と対峙することになるだろう。表現者の矜持だ。

 しかし、同時に生来的勝利者としての本能もうずいているのではないか。

「(GPファイナル後)ベストだと思うことをやってきて、練習量を積むこともできました。感じたまま、演技できるところまで。なので(全日本で)できようが、できまいが、その結果をもって、自分がどうすべきかもわかるはずです」

 宇野はいつものように哲学的に言って、そう結論に達していた。

 5度の全日本優勝の記録を持っているが、じつは6度目は特別な響きがある。6度の優勝は、憧れである高橋大輔や浅田真央というレジェンドの記録に並ぶ。本人はそうした数字にとらわれるタイプではないだろうが、それだけの実績を積み重ねてきた証左だろう。世界選手権に向けての選考選手の序列でも、最上位であることが発表されている。

 12月21日、宇野はショートプログラムで映画『Everything Everywhere All at Once』からの『Love you Kung Fu』で29番目に見参する。

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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