宇野昌磨がNHK杯で収穫 ジャンプ採点基準にベテラン記者は「大会によってバラバラな面も」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【鍵山優真というモチベーション】

 今大会で結果以上の収穫もあった。試合後の記者会見で、今季よく口にしている「表現」の面での手応えを聞かれると、こう語った。

「今回の試合は久しぶりに集中したので、演技中のことはあまり覚えてないんです。だから、今日の自分の演技をもう一度見直して、自分がどう思うかというのを見てみたいと思います」

 昨シーズン、宇野は世界選手権連覇の結果を出すなかでも、その戦いの対象を自分だと捉えていた。自分に勝つことがすべてだと。フリーでの4回転5本への挑戦をやり通すと話していたのも、そんな自身の進化への希求からだった。

 今大会は、大会を純粋な勝負の場として捉えることができたという。単に勝ちたいというのではなく、鍵山優真が長いケガから復帰してきて、同じ場に立つようになったからこそ感じる気持ちなのだ。

「去年、何を言ったか本当に覚えていないけど、挑戦とかを口にしたのは、自分のモチベーションをなんとかあげようとして言ったことだと思います。今年初めに『表現』と言ったのも同じで、僕がモチベーションを見つけるため。それは本当に本心でした。でも今大会に出てみて、(鍵山)優真くんのような存在がいないとそこから先のモチベーションはなかなか出てこないだろうなと思いました。

 3年前にトップで戦えなくなっていた時に優真くんがグッとあらわれて、僕も頑張りたいと思った。そこからはジャンプばかりに集中しましたが、ある程度跳べるようになったから完成度を目指したいと思った。みなさんは4回転の本数を言うけど、フリーでも4回転を3本くらい跳べば、そこからは本数ではなく完成度の勝負だと思っています。

 優真くんの4回転サルコウは、GOEを加えればルッツ以上の点数がもらえる。今の僕に本当に必要なのは、しっかりGOEを上げること。表現の部分でももっと体力的に頑張れるところがたくさんあると思うので、引き続きやっていけば、年末とか年明けには、すごくいいものになるんじゃないかと思っています」

 不可解な部分も残るNHK杯ではあったが、宇野は結果以上のものを手にすることができたといえるだろう。


【著者プロフィール】
折山淑美 おりやま・としみ 
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、これまでに夏季・冬季合わせて16回の大会をリポートした。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦らのトップ選手の歩みを丹念に追っている。

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