宇野昌磨は「今年一ひどい」状態から今季世界最高得点をマーク。世界フィギュア好発進を引き寄せた「瞬時の判断」を振り返る
●今季世界最高得点で発進
3月23日、さいたまスーパーアリーナ。フィギュアスケートの世界選手権、男子シングル競技が行なわれたメインリンクでは、この日一番の歓声と拍手が降り注いでいた。
スタンドの一角では、どうにか感動を伝えようと、声にならない叫びになった。音は重なり合い、地鳴りのように響いていた。
熱気の渦の中心にいた宇野昌磨(25歳、トヨタ自動車)は演技直後、拳をつくって2度振り下ろした。
世界選手権男子シングルSPの宇野昌磨この記事に関連する写真を見る 論理的思考を好み、学者肌のようなところもあるが、熱くたぎった勇敢さや野心を隠し持っている。その感情が表に出た瞬間だった。
「久しぶりに、感情を試合にぶつけるような演技になりました。いつもよりは、『さあ頑張るぞ』と思っていたので。その分、最後はうれしさが込み上げてきたんじゃないかなって」
世界王者である宇野は、そう振り返っている。今シーズン世界最高となる104.63点で堂々の首位に立った。連覇に向け、最高のスタートを切ったわけだが......。
1 / 4
プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。