宇野昌磨は「今年一ひどい」状態から今季世界最高得点をマーク。世界フィギュア好発進を引き寄せた「瞬時の判断」を振り返る (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

●とっさの適切な選択が王者のゆえん

 本番前の6分間練習の宇野は前日までとは別人のようだった。ほとんどすべてのジャンプを成功。調子の悪さやケガの不安を払拭していた。

「練習していたことが本番で出る」が信条だが、その理屈さえ凌駕したのは、彼がこれまで練習を裏切らなかったからだろう。

 一度リンクから降りたあと、ステファン・ランビエルコーチからアドバイスを受けていたが、珍しく上の空で、内面世界に入ったのか、静かな気迫がみなぎっていた。

 意を決した宇野は、『Gravity』の旋律に自然と体を動かしている。冒頭、4回転フリップを成功。2.99点ものGOE(出来ばえ点)がついた。

 あれだけ苦戦していたフリップを難なくクリア。そのあとの4回転トーループ+2回転トーループは、3回転トーループが予定構成だったが、とっさの判断だった。

「想像よりもきれいに跳ぶことができました。まずは単発のトーループを降りて、と思って、トリプルやろうか迷ったんですが、構えた踏切はダブルだったし、中途半端にやって、こけてしまうのは最悪なので。

 まあ、(2回転にすると)みなさんに言われるだろうな、とは思いましたが(笑)」

 その判断も、世界王者がなせる業だろう。瞬時に最適な選択ができるか。わずかな迷いが、すべてを狂わせる。それが常勝選手と惜しい選手との差だ。

「今までやってきた練習は無駄ではなくて。気持ちひとつで投げやりにならず。たとえできなくても最善を尽くす、と思っていました」

 最後のトリプルアクセルは飛距離も出て、美しかった。

 絶対王者である宇野は、日々の練習に支えられている。そのおかげで、臨機応変に臨める。悪いなりの演技ができるし、ギリギリの判断ができる。練習の分厚さで、スケーターとして突き動かされているというのか。

「今回のショートは、1年間、ジャンプだけでなく、スピン、ステップも仕上げてきて。レベルはちょこっと落としましたが、やり残したことがないプログラムになったかなと。そこが一番よかったと思います」

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