かなだいは「攻めた結果」2度の転倒。高橋大輔は「ショックすぎる。メンタル的に笑えない状況でした」 (3ページ目)
【自分たちは自分たちのベストを】
ところが、全日本優勝直後のインタビューでも、ふたりはすでに次の戦いに向けて意欲的だった。読者プレゼント用の色紙にサインをリクエストすると、ふたりともためらわずに「NEW」という言葉を使い、メッセージを書いた。
「新しく作り出す世界」
そのイメージを共有していた。栄光に甘んじず、視線は前に向いていた。その精力的な取り組み方こそ、ふたりがアイスダンスで新時代を切り拓くことができた理由だろう。
「世界選手権までに完成形を見せられるように」
全日本後にふたりは口をそろえて語っていたが、今はそのプロセスだ。
「大ちゃんは本当に"スケートを追求したい"っていう気持ちが強いんです。練習中も、一人でこう(上半身を使って滑る様子を表しながら)常に滑りをチェックしています。失敗すると、またそこを確認しながら滑って。本当にスケートが好きなんだって。一緒に滑っていて、それは強く感じますね」
村元は語っていたが、ふたりとも"アイスダンスそのものを生きている"のだ。
「結果よりも、練習を重ねるなかで(技が)身につくことのほうが楽しいかもしれません」
高橋は笑みを交えて語っていた。
「練習で『1週間前にはできなかったのにできる!』とか、そういうのが楽しいですね。(全日本のフリーの最後で)失敗したリフトも、1シーズン目はできなかったんです。乗っけるだけなんですけどできなくて。それが3シーズン目にやってみた時、時間がかかるかなと思っていたら、意外にすぐできて。そういう変化は嬉しいです」
ふたりの姿勢は一貫している。リンクでの日々に答えはあるのだ。
「毎試合、課題は見つかるもので」
四大陸選手権後、村元はそう振り返って、次の世界選手権に向けてポジティブだった。
「全体のベースはできているので、細かいところを詰めて練習を続けていきたいです。世界選手権ではトップ選手がそろうことになりますが、自分たちは自分たちのベストを、パーフェクトの演技をするだけで。
今回の経験でもっと強くなれるはずだし、1カ月さらにトレーニングをして、高いモチベーションで臨めるように」
一方で高橋は短いが、彼らしく言った。
「本番はどうなるかわかりませんが、まずは練習を大事に」
3月、埼玉。かなだいは2度目の世界選手権に挑む。目標は日本勢初のトップテン入りだ。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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