本田武史が語る「羽生結弦がプロのスケーターになることの意味」とは (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao / Fantasy on Ice 2022

新たな形のアイスショーを

 実際、僕自身が26歳でプロになってからまず思ったことは、競技会では味わえなかったスケートの楽しさが、アイスショーなどに出演した時にストレートに伝わってきたことです。ルールの縛りもなく、自分が目指すスケーティングだったり、見せ方だったりを自由自在にやっていけるので、スケートを始めたころの「スケートって楽しいな」とか「スケートが好きだな」という一番最初の原点にまた戻れたことは、すごく新鮮でした。

 当時は、北米やヨーロッパではすごい数のアイスショーツアーがあったんです。1カ月間とか2カ月間、出演スケーターがバスに乗っていろいろなところに行って全30公演とか、そんなことをやっていました。僕もドイツツアーに行ったり、カナダのオンタリオ州をバスで回るツアーにも参加したりしましたが、そう考えると、世界的にはアイススケートのショーがずいぶん減ってしまったのかなと思います。

 幸い日本には現在、「プリンスアイスワールド」や「ファンタジーオンアイス」「フレンズオンアイス」などがあって、アイスショーは十分、興行として成り立っていますが、そういったショーに参加するとともに、今後は、羽生選手がプロとしてやっていくなかで、何らかのアイスショーを彼が独自に作り上げていくだろうなと考えられます。

 そういう新たな形のアイスショーがどんどん盛んになってくれば、今までフィギュアスケートを生で見ることができなかった人たちも見るきっかけになって、それで「スケートをやってみたいな」と思う子たちが育ってくるはずです。やりたいという子が出てくれれば、また次の世代にいい選手たちが育ってくるのかなと思います。

 現状、フィギュアスケートはどちらかというと「する競技」ではなく、「見る競技」になってしまい、競技人口もリンクも減ってきています。17年間、プロスケーターとしてアイスショーに出ていますが、フィギュアスケートを取り巻く環境が悪化していることを僕自身もすごく実感しています。

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