羽生結弦が北京で舞った『春よ、来い』に表れた"ある変化"。「スケート人生のいろんなものを込めた」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直/JMPA●撮影 photo by Noto Sunao/JMPA

【戦い抜いた満足感】

 右足首のケガを負った状態でエキシビション出演を決めたのは、五輪は特別な場であり、自身の演技に感動してくれた人や応援してくれた人たちに、感謝を伝えたいと思ったからだろう。それができる期待感や喜び。戦いを終えてすべての肩の荷を下ろしていた状態だったからこそ、スケートを楽しもうと思ったのだろうし、心の底から楽しめていたのだろう。だからこそ、幸せを感じる時間だった。

 エキシビションで羽生が演じたのは『春よ、来い』。ピアノの音を一つひとつ感じながらの滑り。キレのあるトリプルアクセルを降りると、メリハリのある大きな動きでスピンやステップをこなし、大きなシングルアクセルも跳ぶ。そして最後のポーズは、これまでの演技ではしていた、拾い集めていた氷片を宙に散らすしぐさがなかった。

 これまでそのしぐさを見るたび、羽生のいつか来るだろう春を待ち焦がれる思いが伝わってくる気がしていた。だが、今回の『春よ、来い』は、勝負の舞台である北京五輪を戦い抜いたこと自体が、彼にとっての春の訪れだったのではないかと思えた。その演技はそんな満足感を、心の底から伝える踊りだったように思う。

 羽生はエントリーしている3月下旬の世界選手権に向けて、こう話した。

「昨日(2月19日)までの練習はギリギリの状態でやっていたけど、今朝のフィナーレの練習で、痛み止めを1錠しか飲んでいなかったのでどのくらいできるかと試してみたんです。そうしたらめちゃくちゃ痛くて、ループもフリップもダメだと思ってアクセルしかできなかったんです。そのあとで追加してきょうは6錠くらい飲んでしまっていますが、そういう状況なので足首をちゃんと休ませてあげようかなと思っています。

 ただ、普通の状態だったら足首だけですむ問題かもしれないけど、ここまで楽しませてもらっているなかで足首を過剰に動かしていたら、体のバランスも崩れてたぶんいろんなところが痛くなってくると思うんです。だからちゃんと休ませてあげて、いろいろ考えながら総合的に判断して世界選手権をどうするか決めようと思っています」

 戦いを終えた羽生はミックスゾーンでの話を終えると、記者たちに何度も「ありがとうございました」と言って戻っていった。

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