坂本花織は今年も疾走する。「もっと自分を苦しめていい結果を」 (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • photo by JMPA/Enomoto Asami

 迎えた全日本選手権では、武器の3回転フリップ+3回転トーループの連続ジャンプをSPでミスして得点を伸ばせずに2位発進。逆転優勝に一縷の望みをつないでフリーでの挽回に懸けた。坂本の代表作となったフリー『マトリックス』(ブノワ・リショー振付)は2シーズン目ということもあって、滑り込みの成果を遺憾なく発揮。そこにはこんなエピソードも隠れていた。

「曲もちょっと変えたので、ブノワ先生から『もうちょっと変えた感を出そう』ということになって衣装も変えました。前の衣装は伸縮性、通気性がゼロで本当に苦しかったんですけど、背中が空いただけで全然違いました(笑)」

 昨季から何度も見ているプログラムだが、"見飽きた感"がないのは、衣装チェンジもあるかもしれないが、振り付けと音楽の一体感が増して演技に引き込まれるからだろう。

「うまく緊張をコントロールできたフリーでは、昨季は落ちこぼれのような演技でしたが、今季はリベンジの演技ができてすごくよかったですし、悔しい思いを晴らせてほっとしています」

 全日本ではSP首位の紀平梨花がフリーで4回転サルコウに初成功、さらにトリプルアクセルも跳び、これではいくら自身が完璧な演技を見せても得点で追いつけないことを痛感したようだ。結局、紀平は合計234.24点の高得点を出して優勝。現実を直視した坂本は、全日本選手権のメダリスト会見で素直に負けを認めてこう話した。

「今回、自分がマックスの演技をして最高の演技を出したとしても、4回転とトリプルアクセルを跳んだ梨花ちゃんのほうが得点も順位も上だと思いました」

 ただし「まだ伸びしろがある」と自他ともに認めている坂本は諦めてはいない。平昌五輪代表になったオリンピアンとしてのプライドもある。もう一度、五輪の舞台で、今度こそは表彰台争いに加わりたいと思っているに違いない。

 坂本は持ち前の明るさで、コロナ禍のなかの2020年と今季前半戦を振り返り、今年2021年と今後についての意気込みをこう語っている。

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