2021.01.11

羽生結弦は憧れのレジェンドたちへの想いを演技で表現した

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

『羽生結弦は未来を創る〜絶対王者との対話』
第Ⅳ部 芸術性へのこだわり(6)

数々の快挙を達成し、男子フィギュアスケートを牽引する羽生結弦。常に挑戦を続ける桁外れの精神力と自らの理想を果敢に追い求める情熱を持つアスリートの進化の歩みを振り返る。世界の好敵手との歴史に残る戦いや王者が切り拓いていく未来を、長年密着取材を続けるベテランジャーナリストが探っていく。

2018年8月、トロントの公開練習で新プログラムを披露する羽生結弦 2018年平昌五輪で、競技人生最大の目標とした五輪連覇の偉業を達成した羽生結弦は、次のシーズンのプログラムで、小さい頃から憧れていたレジェンドたちへの思いを形にしようと試みた。それは、次なる道を模索するための挑戦だった。

 18年8月、カナダ・トロントで行なわれた公開練習で、羽生は新プログラムを発表。ショートプログラム(SP)はジェフリー・バトル氏による振り付けの『秋によせて』で、フリーはシェイ=リーン・ボーン氏振り付けの『Origin』。羽生が憧憬の念を抱くジョニー・ウィアとエフゲニー・プルシェンコがそれぞれ使用した曲だ。

「フリーはプルシェンコさんが『ニジンスキーに捧ぐ』で使っていた曲で、これは僕がスケートに没頭するきっかけなったプログラムです。自分のスケート人生の起源というか、根源的なものを感じて滑りたいと思ってこのタイトルにしました。ショートも非常に印象に残っているプログラム。ウィアさんのスケートに見入り、スピン時の手の使い方や柔らかい表現、間の取り方、ジャンプのランディング姿勢など、一つひとつに注意をして演技をするようになった曲です」

 平昌五輪後、ケガでスケートができない1カ月間、羽生はずっと考えていた。「勝ち負けに固執し過ぎる必要はない。自分のために滑ってもいいかな」と思い、このふたつの曲に決めた。自ら企画・プロデュースしたアイスショー「コンティニューズ・ウィズ・ウィングス」にウィアとプルシェンコに出演してもらった際に曲の使用について伝え、「すごくうれしい」「頑張ってくれ」とふたりから了承を得たという。