羽生結弦はチェンとの死闘でまた一歩強くなった。目指すべき道が明確に (4ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「4回転を1本増やしたからといって縮まる点差ではないことはわかっていました。だからこそ、『何か爪痕を残したい』という気持ちがありました。『どうしてコーチが来られなかったのだろう』とか『なぜSPでミスをしてしまったのだろう』と、いろいろ考えもしました。僕は運命主義者ではないけど、そこに何かしらの意味があるとしたら、『ストッパー役のコーチがいなくて自分だけで決められる今だからこそ、4A(4回転アクセル)の練習をここでやってもいい』、そういうことなのではないかと思ったんです」

 羽生は中日の公式練習最後に、これまで1カ月以上やっていなかった4Aの練習に3回挑戦した。ケガをするリスクや、フリーで体力が持たなくなるマイナス面もあると承知しながら、それでも観ている人がいる前でやりたい、と覚悟を決めたチャレンジだった。会場のパラベラは06年トリノ五輪が行なわれた場所で、憧れていたエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)だけでなく、荒川静香も優勝している。あの時こそが、羽生の五輪金メダルへの夢を明確にした大会だったからだ。

 フリーでは、その意地の挑戦の影響が出てしまった。最初の4回転ループと4回転ルッツはきれいに決めたが、終盤の3本の連続ジャンプは力尽き、合計は291.43点にとどまって2位。

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