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浅田真央が『アイ・ガット・リズム』を選んだ理由 (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Yinha Synn
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

 そもそもフィギュアスケートという競技にとって、プログラムと振付けはどれだけ重要なものなのか。トリノ五輪の金メダリスト、荒川静香さんは次のように語る。

「トリノ五輪では、これまでの競技人生の中で一番いいプログラムを見せたいという強い思いがありました。プログラムを作るにあたっては、自分がどんなものを理想としているのか、どこまでそれを汲み取って提案してくれるか、振付師との相性は大きいですね。試合で勝負が左右されるのはテクニックの出来によりますが、その前に土台となる揺るぎないプログラムを作ることは大事な要素です。全体的な比重から見れば、プログラムが占める割合は4割くらいでしょうか。そのベースとなる4割が最初からきちんとなければ、あとの6割で勝負することになってしまうので、シーズンインまでに揺るぎないものにしなければいけない。1回でも『今年のプログラムはピンとこない』『良くないんじゃないか』と思ってしまうと、そこの4割の部分で基礎固めができなくなってしまうんです」

 スケーターのシーズンは、新しいプログラム作りから始まる。これらのプログラムはどのようなプロセスを経て作られるのか。ある選手は自分が「この曲で滑りたい」という音楽を探してイメージに合った振付師に頼む。またある選手はプログラム作りを依頼する振付師に曲の選考からすべてを任せる。振付師が提案するいくつかの曲から選ぶケースもある。それぞれのアプローチにより、約1ヵ月ほどでSPとフリーのプログラムを作っていくことになる。

 プログラム作りでは、ジャンプ、スピン、ステップなどの要素を決められた時間内(SPは2分50秒以内、フリーは女子が4分プラスマイナス10秒、男子が4分30秒プラスマイナス10秒)で全体的にバランスよく織り込むという作業も重要になる。戦略としてジャンプを後半にまとめて高得点を狙うか、スタミナを考えて前半にまとめるか。ジャンプやスピンの入れ方一つでプログラムが引き立つか否かが決まるので、そこにも神経を使わないといけない。ひと昔前はコーチが振付けていたというが、近年は専門家の振付師が作ることが多くなっている。

 浅田の持ち味を存分に生かした上で、弱点を目立たせない完成度の高いプログラムを毎シーズン作り、浅田の成長に大きく貢献してきたと言ってもいいローリー・ニコル氏は、当代随一の振付師として知られている。彼女はバンクーバー五輪男子金メダリストのエバン・ライサチェクや世界チャンピオンのパトリック・チャンのほかにも、バンクーバー五輪女子銅メダリストのジョアニー・ロシェットや世界女王のカロリーナ・コストナーのプログラムなども作っている。多くのメダリストにとって必要不可欠な存在なのである。

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