【ボクシング】佐々木尽と世界の頂を目指すトレーナーが、後悔の涙を流した日 手を離してしまった愛弟子の異変 (4ページ目)
5回31秒、TKO負け。
鐘の音が鳴ると同時に、ふたたび両膝を突き、前のめりに倒れた。
誰もいない控室――。
顎の砕けた渡辺は、誰かに付き添われて病院へと直行。
関係者も早々に立ち去った。
廣隆はひとり残り、鮮血に染まったタオルとマウスピースを握りしめていた。
抑え続けていた感情が、一気に爆発した。
声を上げ、大粒の涙を流し続けた。
リングの下で、見守ることしかできなかった。
終わりを告げる鐘の音を、早く鳴らしてほしい。
ただ祈るしか、できなかった。
たった1時間前の出来事が、遠い昔の記憶のようにも思えた。
だが、握りしめたタオルとマウスピースが、否応なく現実を突きつけた。
気を取り直し、荷物を片づけ始めた。
パイプ椅子の下。
床には、ハサミで切られた愛弟子の青い靴紐が落ちていた。
著者プロフィール
会津泰成 (あいず やすなり)
1970年生まれ、長野県出身。93年、FBS福岡放送にアナウンサー入社。プロ野球、Jリーグなどスポーツ中継担当。99年に退社しライターに。第10回Numberスポーツノンフィクション新人賞受賞。主な著書に『マスクごしに見たメジャー 城島健司大リーグ挑戦日記』(集英社)、『歌舞伎の童「中村獅童」という生きかた』(講談社)、『不器用なドリブラー』(集英社クリエイティブ)など。
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