【特別対談】棚橋弘至×藤波辰爾が語り合う受け身の美学 「相手の強い部分を知っておくことが大事」 (3ページ目)
藤波 プロレスって変な言い回しで誤解される場合があって、相手の技を受けると言うと「なんだ、お互いに馴れ合いでやってるのか」って思われたりして嫌なんだけど、そうじゃないんだよね。
棚橋 違いますね。
藤波 自分にチャンスがあれば当然攻めていく。ただ、不思議といい試合になる時というのは、無意識のうちに相手と意思の疎通ができている。
【相手の強い部分を知っておくことが大事】
棚橋 藤波さんの本当にすばらしいところは、闘った選手は全員必ず輝くんです。
藤波 プロレスというのは相手あってなんぼだし、お客さんに感動を与えるというのも相手あってのこと。そして、その相手に自分が勝ちたい。だから前田や橋本とやる時は、彼らのそれまでの試合を見てきているわけだから、どういう動きをするのか、どういう技を使ってくるのかは把握している。
それを一回自分の頭のなかでシミュレーションしてから試合に入っていくんだよね。だってオレが前田の蹴りを怖がったり、一発も受けたくないという姿勢だったら試合は成立しないし、たぶん見ているほうもつまらない。だから、あえてそのなかに飛び込んでいく。そのために相手の強い部分を知っておくことが大事だよね。
棚橋 藤波さんは、相手の力を9まで引き出して自分の10で勝つ。それは5とか6の選手に勝ってもそんなに盛り上がらないし、まず自分がうれしくないからですよね。相手もいい選手、でも自分はそれよりもいい選手なんだという。ひと昔前まで「マウントを取る」という言い方はなかったですけど、藤波さんはずっとそういう勝ち方をしてきたんじゃないかなって思います。
── ドラゴン・マウントですね。
藤波 猪木さんもどっちかというとそっちのタイプだもんね。どんな選手だろうが相手の引き出しをどんどん引き出していって、「あの選手ってこんなによかったかな?」って見えるぐらいにしてしまう。
── 強敵に仕立て上げたうえで勝つことで、自分の強さを示すという。
藤波 どんなトップスターの選手も、最初はみんなデカいだけでどうしようもなかったというのが多いですよ。それを猪木さんがトップスターにつくり上げていくんだよね。
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