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引退の齋藤彰俊が語る「記憶に残る3試合」1試合目の小林邦昭戦で感じた本物のプロレスラーの「強さ」 (3ページ目)

  • 松岡健治●取材・文 text by Matsuoka Kenji

【激闘の後に長州からかけられた言葉】

 無名の齋藤と小林が対戦することに、新日本の内部では多くのレスラーが猛反対したという。そこでこの試合は「番外マッチ」という扱いになり、すべての試合が終了した後に行なわれることになった。入場のテーマソングもなく、プロレスではなく「プロレスvs空手」の異種格闘技戦となったが、実際は「果し合い」「道場破り」という色が濃かった。

「殴りこみのつもりで行きました。新日本からは事前に『とりあえずレフェリーだけはつけるから』としか言われませんでしたね。会場に入ってからは、ずっと興奮状態でした。入場からリングに入った時は"一線を越えて"いました」

 ゴングが鳴ると無我夢中でパンチと蹴りを叩き込んだ。

「プロレスをやるつもりはなかったです。小林さんもそうだと思ったので、『このままいってやれ』と思ってとにかく技を出し続けました」

 全力の打撃を小林に入れ、流血に追い込んだ。それを受け続ける小林に、本物のプロレスラーの姿を見た。

「小林さんの頭突きも、張り手もすごかったです。あと、自分が倒れた時には頭を踏まれました。空手にはルールがありますが、この時は、昔に自分が街でやっていたようなケンカをリング上でやられました。とんでもないパワーでしたね」

 倒れない小林に恐怖を覚え、さらに強烈な蹴りを叩き込んだ。そしておびただしい流血にレフェリーが試合を止めた。齋藤が勝ったのだ。

「勝ちましたが、あの試合は自分がちゃんと呼吸をしていたかも記憶にないんです。プロレスでも格闘技でも、打撃を連打するとどこかで"間"ができますが、あの試合ではそれがありませんでした」

 この試合で、「齋藤彰俊」の名前は一気に広まり、新日本もその存在を認めた。試合からしばらく経った後、マッチメイクを担当していた長州力からこう言われたのだ。

「普通のレスラーが10年かかるところを、お前は1試合でやった」

 この言葉に、齋藤は今も恐縮するが「そこまでおっしゃっていただけたのは、対戦相手が小林さんだったからです。小林さんの強さに無我夢中でぶつかったからこそ、あの試合になったんだと思っています」

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