パリオリンピック女子レスリング 藤波朱理の強さの理由を先輩オリンピアンが振り返る (2ページ目)

  • 佐野美樹●取材・文 text by Sano Miki

【伊調馨との息を呑むようなスパーリング】

 そして彼女のスパーリング終了後の行動にも、その強さの理由を感じ取ったという。

「ざっくりと『これはどうしているんですか? どう動いたらいいですか?』みたいな質問ではなく、『こういう状態にされることが多かったのですが、これはどういう動きでどういうことを意識してこういう状態にしていたのですか?』と具体的かつ的確な質問をされて、いろんなことを緻密に計算して頭で考えてレスリングしているのだなと、感心した記憶があります」

 また。練習の最初から最後まで全力でこなす藤波の姿勢も、とても印象的だったそうだ。

「特に(伊調)馨さんとのスパーリングは、見ているこちらが息を呑むような攻防が展開され、目が離せませんでした。そうした練習の積み重ねが、これまでの連勝記録の礎(いしづえ)となっているのだなと感じています」

 藤波は今年3月に左ひじを脱臼し、手術を余儀なくされた。それにより五輪までの公式大会で実戦を経験することも叶わず、本番では本来の藤波の力が発揮できるのか、不安視もされていた。

 しかし、そんなことを頭に浮かべたことを恥じるくらい、その心配は杞憂に終わった。誰もがうなるほどの圧勝劇だった。

 1回戦から終始冷静で、表情をまったく崩さずに戦っていた藤波。迎えた決勝では華麗なタックルを何度も繰り出し、持ち時間の6分をフルで使うことはなく、相手に10点差をつけてテクニカルスペリオリティーで決着をつけた。

 試合終了のホイッスルが鳴ると、藤波はマットに座ったまま両手の拳を握り締めて、天に向かって雄叫びをあげた。今大会、初めて藤浪が感情を露わにした瞬間だった。

 そして、弾ける笑顔で勝ち名乗りを受けると、マットサイドに上がってきた父・俊一さんに向かって一目散に駆けていき、飛びついた。

「ぶつかり合ったり、ケンカをすることも本当に多かったんですけど、やっぱり父がいなかったらここにはいないと思うので、本当に、一番感謝したい存在です」

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