井上尚弥の父・真吾トレーナーが「怪物」と次男・拓真を最強にすべく費やした25年間の不断の努力と熱意 (2ページ目)

  • 宮崎正博●文 text by Miyazaki Masahiro

【ボクシングファミリーは珍しくない】

次男の拓真も世界王者として、その強さを増してきている photo by 山口フィニート裕朗次男の拓真も世界王者として、その強さを増してきている photo by 山口フィニート裕朗この記事に関連する写真を見る

 親子、兄弟すべてがボクサーだったり、トレーナーだったりする、いわゆるボクシングファミリーは、古今、珍しくはない。父子で目指した世界チャンピオンの夢物語はいくらでもある。

 昭和40年代に、その試合のテレビ視聴率が60%超えを記録した大スター、ファイティング原田の敵役エデル・ジョフレ(ブラジル=世界バンタム級チャンピオン)がそうだった。1976年に史上最年少17歳で世界チャンピオン(WBAスーパーライト級)になったウィルフレド・ベニテス(プエルトリコ)も、父親の指導によって頂点にたどり着いた。"黄金のバンタム"と呼ばれたジョフレは、堅実な技巧と豪快なパンチの持ち主で、全時代を通じてバンタム級最強と評価する識者も少なくない。素早いステップとハイセンスな攻防で戦いを管理したベニテスも3階級制覇を成し遂げている。

 日本でも亀田兄弟がいる。興毅、大毅、和毅と3人の世界王者が育ち、興毅が3階級、大毅と和毅が2階級と複数階級の世界一を手にした。和毅は現在も3階級目の世界王座を目指している。この兄弟の指導者、父・史郎トレーナーにもプロでの試合経験はない。

 海外の現役でもWBC世界スーパーミドル級暫定チャンピオン、デビッド・ベナビデス(アメリカ)がそう。父ホセ・ベナビデス・シニアの英才教育の下で育った。大柄な体から豪打をぶちまける凶暴なファイトスタイルが持ち味だ。圧倒的な観客動員力を誇るサウル・カネロ・アルバレス(メキシコ=4団体世界スーパーミドル級チャンピオン)の最大のライバルと見なされている。

 メキシコからの移民だったホセ・シニアは過酷な少年時代を過ごした。長男のホセ・ジュニアが誕生すると、「この子に世界チャンピオンの美しい人生を送らせたい」と夢を託した。名選手のビデオを買い集め、まずは自前でボクシングを学んだ。息子を引き連れてマニー・パッキャオ(フィリピン)のキャリアをガイダンスしたフレディ・ローチ、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)ら有名トレーナーのジムを行脚した。そして、長男のホセ・ジュニアをWBA世界ウェルター級暫定チャンピオンに育てた。次いで弟のデビッドも20歳でプロのトップにまで連れていった。

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