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寺地拳四朗「今日は倒せないかもしれない」...TKO勝利の裏でよぎった弱気をどう立て直したのか (2ページ目)

  • 会津泰成●文・取材 text by Aizu Yasunari
  • ヤナガワゴーッ!●撮影

「大丈夫。どんどん(距離を)潰していこう」

 コーナーに戻ってきた拳四朗に、チーフセコンドの加藤は明るい口調でアドバイスした。拳四朗とは東京で開催された初の世界タイトル挑戦時、三迫ジムでサポートしたことを縁にコンビを組むようになった。今では「加藤さんと出会ってボクシングの奥深さを知り始めました」と全幅の信頼を寄せられている。そんな恩師の言葉だからこそ、拳四朗は迷いを吹っきることができたに違いない。

「『自然と倒せるペース、倒せる流れに持っていく』というプランを立てて準備をして挑んだはずなのに、『判定狙いに切り替える』と考え方がブレてしまうことが自分は嫌でした。逆にブドラー陣営はブレない戦い方を続けていました。

 勝ち負けだけを考えれば、ブドラー陣営の作戦が正しいのかどうかわかりません。『なぜポイントでは負けているのに、倒そうとしないのか』と。でも、それくらいプランを忠実に守り続けていましたし、実際、拳四朗の戦い方にも迷いが生じました。

 拳四朗には揺らいだ気持ちのまま戦って欲しくなかったので、『プランどおり戦えば必ず倒せる』という意味で『どんどん(距離を)潰していこう』と伝えました」(加藤)

 9回、自信を取り戻した拳四朗は、右回りで距離を取ろうとするブドラーの進路を塞ぐように動き、ふたたび「半歩前」の距離を作り始めた。そこから得意の左ジャブの連打でプレッシャーを掛け、右ストレートでダメージを与える。多少被弾してもお構いなしに前に出て、強烈な左右のボディ攻撃。反応が遅れ出し、ついに足も動かなくなったブドラーをロープまで追い込み、仕上げとばかりに怒涛の連打でTKO勝利を飾った。

 世界戦の通算勝利数はこれで「13」。長谷川穂積、山中慎介と並ぶ日本人歴代4位タイとなり、世界チャンピオンとしての評価をさらに上げた。しかし拳四朗自身は、以前のようにリング上でトレードマークの笑顔と一緒にダブルピースをしたりはせず、終始淡々と観客の声援に応え、ともに戦うチームに対する感謝の気持ちを述べた。その様子はどことなくこれまでの拳四朗とは少し違う、王者の風格を感じさせた。

 終わってみればプランどおりの「倒すボクシング」で完勝した拳四朗にこれからについて聞いた。

「倒すボクシングには、これからもこだわりたいですね。そのほうがお客さんも喜んでくれますし。でも今回、僕は苦しい局面で諦めかけてしまった。人間ってやっぱり、しんどいことは嫌なんでしょうね。でもやればできるわけじゃないですか。『自分はまだまだ甘いな』と痛感しました」

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