入江聖奈「カエルはラブリーで尊い」。ボクシング継続を望む声にもキッパリ「きつい練習するのは私なんで」 (4ページ目)

  • 門脇正法●取材・文 text by Kadowaki Masanori
  • 吉楽洋平●撮影 photo by Kichiraku Yohei

【文武両道は「自分の好き」に正直になること】

ーーカエルの研究を現時点ではどこまで極めていきたいと思いますか?

 研究自体が初めてなので、まず修士をとってから、就職するのか、博士課程に進むのかを決めたいと思います。でも自分の希望としては博士課程にいきたいなと。今だと、就職のイメージが全然わかないですが、カエルに関わる仕事が絶対です。

 たとえば、ハードルは高いんですが、環境省とかでカエルは当然なんですけど、両生類や爬虫類を含めて、生物の保全に携わっていける人間になるのも、面白いかなと思っています。

 どちらにしても、まずは修士でカエルの専門性を深めないといけないと思ってますし、それからですね。

ーーでは、入江さんにとって「文武両道」とは?

 その「文武両道」が教えてもらうものだったら意味がないと思うんです。だって私からすれば、ボクシングもカエルの研究も、自分がしたいからやっているだけであって、誰かに強制されたわけじゃないんです。

 誰かに強制されて、その選択肢を選んだとしたら、それは意味がないですよね。自分がしたいからしている。それが「文武両道」なんだと思います。

 だから別に勉強だから意味があるとか、スポーツだから意味があるとかじゃなくて本当に自分の好きなことを、人それぞれがたぶん持っていると思うんですけど、それを自分が大切にして、続けていけば、どこかで何かやってきた意味を見つけられるんじゃないかなと。

ーーそんな「文武両道」に挑む学生たちに、アドバイスをお願いします。

 そうですね、うーん、難しいな......。何かを始める時や何かを目指す時って、絶対に悪いことがつきまとう気がしているんです。たとえば私が五輪で金メダルを獲りたいと言った時も、誰もたぶん興味を持っていなくて、獲れるわけないじゃんという感じでみんな見ていたと思うんです。でもコツコツ目指してやってきたら、実際に叶っちゃうんです!

 カエルの研究をしたいと大学院進学を考えた時にも、自分は高校生からカエルを好きになったので、幼少期から生き物が好きな人たちのなかで自分は遅すぎるんじゃないかなとか思ったこともありました。

 そういう悪い感情や悪い言葉とかがつきまとうと思うんですけど、やっぱり何かをやるのに遅いことはない! 私はそう思っているんで、みんなにも自分の好きなことに正直になって、一歩目を踏み出してほしいなと思います。

終わり 

インタビュー前編<東京五輪ボクシング金の入江聖奈「過去の栄光にすがらない」。大学院でのカエル研究のため「生理的にダメな数学を克服しないと...」>

【プロフィール】
入江聖奈 いりえ・せな 
元ボクシング選手。日本体育大学4年。2000年、鳥取県生まれ。小学生の時にボクシング漫画『がんばれ元気』(小学館)を読んだことをきっかけに競技を始める。2018年、高校3年で全日本女子選手権初優勝。2019年、世界選手権に初出場しベスト8入り。2021年の東京五輪では女子フェザー級で日本ボクシング史上、女性初となる金メダルを獲得。2022年11月のアジア選手権で2位。同11月の全日本選手権2連覇を最後に現役引退。2023年4月からは東京農工大学の大学院でカエルの研究を始める。

【著者プロフィール】
門脇正法 かどわき・まさのり 
1967年、埼玉県生まれ。日本女子体育大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。アニメ『ドラゴンボールZ』の脚本家である小山高生氏からシナリオを学び、マンガ原作者デビュー。特にスポーツアスリートの実録マンガを得意としており、『世界再戦ー松坂大輔物語ー』(集英社/少年ジャンプ)、『好敵手ー室伏広治物語ー』(同)、『闘球「元」日本代表ー福岡堅樹物語ー』(集英社/ヤングジャンプ)の原作を担当。現在はマンガの原作だけでなく、「少年ジャンプ」のスポーツ記事特集『ジャンスタ』を中心に、『webスポルティーバ』の「文武両道の裏側」など、スポーツライターとしても活躍中。著書に『バクマン。勝利学』『少年ジャンプ勝利学』(ともに集英社インターナショナル)などがある。

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