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マーベラス・桃野美桜が目指す、師匠の長与千種と「真逆」の存在。壮絶なケガを乗り越えての野望は「100歳までプロレスラー」 (2ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko
  • photo by 林ユバ

「100%の力でやるから怪我をするんだ」

 2016年6月、デビュー直後に肘を怪我して3カ月欠場した。2018年12月、左膝前十字靭帯断裂のため11カ月欠場。2019年11月に復帰戦を行なうも、翌月、再び試合中に怪我をして8カ月欠場。そして今度は原因不明の腰の怪我だ。

 なぜ桃野はこんなに怪我が多いのか。試合中、特別に無茶をしているようには思えない。

「『100%の力でやるから怪我をするんだ』って、よく先輩方に言われるんですよ。本当にすべてを100%で出し切って、100%で受けきってるから怪我をする。『手を抜くことも覚えなさい』って言われるんですけど、その感覚はまだちょっとわからなくて......。試合中に手を抜くって、どういうことなんだろう。それがわかるようになったら、またグレードアップするのかなと思うんですけど」

 原因不明の腰の怪我。欠場を発表した時は、「やっと痛みから解放される」と安堵した。少し休めば大丈夫――そう思っていた。しかし注射を打ち続けても、腰の状態はどんどん悪くなっていく。病院での治療法は注射を打つことしかない。整体、バイタル、針、気功......効果がありそうなものはなんでもやった。

 セカンドオピニオンを求めて腰の名医の元を訪れるも、注射を打たれて終わり。絶望した。セコンドで仲間のレスラーたちが輝く姿を見ても、なんの感情も抱かなくなった。悔しくもない。悲しくもない。「自分がそこにいたい」という気持ちもない。プロレスラーとして、自分は終わったと感じた。

 2021年11月、長与とともにサードオピニオンを求めて、とある病院へ行く。「椎間板に液を入れる検査をして、痛ければそれが原因」と言われた。検査を受けると、全身が圧迫され、息ができず、頭の血管が切れそうなほどの痛みを感じた。泣き叫んだが、原因がわかったことが嬉しくてたまらず、病院の帰りに長与と2人で泣きながらジュースで乾杯した。

 手術をしたが、その後も壮絶な痛みに苦しめられる。3カ月後に復帰できる見込みだったが、復帰戦の予定は次、また次と延びていく。子供の頃から夢や目標に向かって頑張るのが好きな桃野だが、「無理なものは無理」と思うようになった。苦しくて仕方なく、毎日、朝が来るのが怖かった。大好きなプロレスをやめようと初めて思った。

 それでも仲間やファンに支えられ、そしてなによりもプロレスが大好きだから、桃野は諦めなかった。2022年6月24日、新木場大会で9カ月振りのリング復帰。門倉凛と組み、彩羽匠、永島千佳世と対戦した。負けてしまったが、全身でプロレスを楽しもうとする桃野の姿がそこにはあった。欠場期間を経て、「ありのままの自分を愛せるようになった」という。

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