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前田日明VS藤波辰巳の大流血の一戦。ケンコバは「受けの美学」をこの試合で理解した (2ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • 山内猛●撮影 photo by Yamauchi Takeshi

藤波に学んだ「受けの美学」

――どういった出来事ですか?

「僕は2000年代の中ごろに東京に進出したんです。それで舞台やテレビに出演した時、たまにプロレスジョークを挟んでいたんですけど、まったくウケないんですよ。誰も笑ってくれない。その時は『そらそうやろな。プロレスのボケは自分のワガママでやってるからウケなくても仕方ない。他のことで笑わせなあかんか......』と、理解してもらえない寂しさがあったんです」

――まさに無人島状態ですね。

「そんな悩みを抱えたある日、僕のプロレスジョークを、くりいむしちゅーの有田(哲平)さんだけが笑ってくれたんです。しかも、何を言っても大爆笑してくれて」

――その時の有田さんは、ケンコバさんにとっての藤波さんだったわけですね!

「それだけじゃなくて有田さんは、もっとすごいプロレスのボケをやってきたんです。それで俺も大笑いしっぱなしでした。今思えば、あの時の有田さんも『無人島だと思ったら仲間がいた』と感じてくれていたのかもしれません」

――前田さんの「無人島だと思ったら仲間がいた」という感覚を、ケンコバさんと有田さんも抱いていたということですね。先ほど、そのコメントによって「両者KOの結末にも納得できた」と話していましたが、それはどういうことでしょうか。

「藤波さんは出血量もすごかったですし、スタミナも限界だっただろうから、立ち上がれないことに説得力があった。だけど、前田さんに関しては『まだバリバリ元気やろ』とも思ってました。だけど、あの名言を聞いて納得しました。『無人島で仲間を見つけたら、もう戦えんよな』って。だから立ち上がれなかったことに関しても、勝手に僕の中で『足がしびれたんやろう』と脳内補完された感じなんです。試合内容もメチャメチャ面白かったし、ひとつの"作品"としてすばらしかったです」

――攻める前田さんより、受ける藤波さんが光るというプロレスならではの世界観もありましたね。

「当時の俺は中学2年生で、従来のプロレスとは違う、前田さんの刺激的な攻撃に熱狂していました。ジャイアント馬場さんが言っていた"受けの美学"みたいなものも、正直なところよくわかっていなかった。それを理解するきっかけになったのが、この試合だったんちゃうかなと思うんです。そこあたりから、『プロレスって受けが大事なんだ』という視点で試合を見るようになっていったので」

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