「なんで自分はこうなんだ!」悩み続けたアイドル時代。伊藤麻希はプロレスに生きる道を見つけた (3ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

 高木社長から猛アプローチを受け、DDTにゲスト参戦を重ねた。当時はアイドルがプロレスをやるということが珍しく、メディアに大きく取り上げられ、「本気でこの道に進んだら有名になれそうだなあ」と思い始めた。しかし、女子プロレスラーは"女を捨てている"イメージがあり、躊躇(ためら)った。

「オブラートに包まず言うと、"汚い"っていうイメージがあったんですよ。アイドルには本当にいいイメージしかなくて、自分がそこからプロレスに行くっていうのは、負けた感じがしたんです。だからプロレスを始めると決めてからも、LinQのメンバーには言いたくなくて。言わずに上京しましたね」

 今振り返ってみて、アイドルからプロレスラーになって「負けた」と思うことはあるのだろうか。

「行き詰まっているから方向転換するわけなんですけど、それが勝ちか負けかって言ったら、そうじゃないと今では思うんですね。プロレスってケガのリスクもつきものだし、アイドルでニコニコやってるだけのほうが長生きはできたのかもしれない。でも、自分的にはそれだけじゃつまらないっていうか。飽きてたんで、アイドルには」

 伊藤は、アイドルに飽きていた。

「同じ歌詞で同じ振付けで同じフォーメーションで、代り映えがない。自分の人気もなかったから、誰も見てねえし、みたいな。ファンと目が合わないし、みたいな。なんでここにいるのかなって思いながら歌ってました。歌いながら、昼ご飯のこととか考えてましたね」

 そんな彼女にとって、プロレスは刺激的だった。毎試合、緊張する。試合をする度に、客席のハードルが上がっていく気がする。その期待に応える伊藤麻希でいなければいけないと思うと、昼飯のことを考える暇はなかった。

「プレッシャーもあるんですけど、あったほうがいいかなと思う。期待されているからこそできる表現とか、あったりするんですよね。『お客さんはこういう伊藤麻希が見たいんだろう』って、逆算して行動するんですよ。そもそも期待されていなかったら、そういう計算とかもできないと思うから」

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