「なんで自分はこうなんだ!」悩み続けたアイドル時代。伊藤麻希はプロレスに生きる道を見つけた

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

■『今こそ女子プロレス!』vol.1
伊藤麻希 前編

 2018年1月4日、東京女子プロレス後楽園ホール大会。"闘うクビドル"こと伊藤麻希がリングインすると、赤とオレンジの紙テープが大量に舞った。会場の空気を一瞬で物にする様は見事。しかし、対戦相手は稀代の天才エンターテイナー・男色ディーノである。ディーノが入場し、会場を縦横無尽に暴れ回ると、客席は爆発的に沸いた。

東京女子プロレスの最強女王決定トーナメント「プリンセスカップ」を初制覇した伊藤麻希 (写真提供:東京女子プロレス)東京女子プロレスの最強女王決定トーナメント「プリンセスカップ」を初制覇した伊藤麻希 (写真提供:東京女子プロレス)この記事に関連する写真を見る パワー、技術、経験値。試合はすべてにおいてディーノが上回っていた。伊藤に勝ち目はない。そう誰もが思った瞬間、彼女はディーノの得意技を繰り出した――リップロック。つまり、キスだ。しかも彼女にとって、ファーストキス。

 試合には負けてしまったが、すごい女子プロレスラーがいるものだと思った。しかし同時にこうも思った。キスなんてしなくても、あなたは十分輝いているのに......。

「若かったから、『話題になればいいや』って思ってましたね。面白かったらそれでいいやって。後先のことは考えてなかったです。別にここでファーストキスを捧げようが、この先、イイ男といっぱいキスできるから大丈夫だろうと。プロレス以外のことは、本当にどうでもよかったんです」

 ケラケラ笑いながら、"2021年8月"の伊藤麻希は、当時をそう振り返る。

***

インタビューの数日前、試合で顔を負傷したため、黒いサングラスに黒いマスクをして取材場所に訪れた。表情がまったく見えない中、手探りでインタビューを進める。

 伊藤は1995年7月22日、福岡県小郡市で生まれた。福岡市から電車で1時間ほどのベッドタウン。閉鎖的な町で、ミニスカートを履いているだけでいじめに遭った。

「子供の頃から目立ちたがり屋で、メゾピアノとかエンジェルブルーとか、可愛いブランドの服をたくさん着てたんですよ。そしたら上級生から『なんなの、アイツ』みたいな感じで、よく目をつけられました。ただね、私にも問題があったんです。人との関わり方がとにかく下手で、何をしても嫌われるんですよね」

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