プロレスラー伊藤麻希が強くなって失った「生き様」。見せる「必要がなくなった」と言い切れる理由
■『今こそ女子プロレス!』vol.1
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日本にとどまらず、海外でも爆発的な人気を誇る伊藤麻希。その魅力は何といっても、生き様が溢れる試合、そしてマイクパフォーマンスにある。しかし最近、「生き様が出ない」と感じているという。いったい伊藤に、なにが起きたのだろうか。
海外のプロレスファンからの人気も高い伊藤麻希(写真提供:東京女子プロレス)この記事に関連する写真を見る***
「昔はアンダードッグっていうんですかね。弱くて、いつもボコボコにされてたから、悔しくて悔しくてたまらなかったんですよ。自分の人生も踏んだり蹴ったりだったので、それも相まって感情が爆発していた。だけど、ずっとボコボコにされ続けたら学んでいくもので、ちょっとずつ強くなっていったんです」
試合に生き様が出なくなってきたことに対して、悩んだ時期もあった。「昔のほうが、自分はプロレスがうまかったんじゃないか?」と思うようにもなった。そして先日、伊藤は2018年1月4日の男色ディーノとの試合を観返した。それがなかなか......酷かった。
「かなり話題になったし、自分のなかでも代表的な作品(試合)ではあるんです。でも今観たら、自分が思っていたよりも『この時の伊藤麻希、大したことないな』と思っちゃって。今の自分ならこうやるなとか、そういうことを思えるようになったんですよね。それがお客さんの心に響くかはわからないですけど」
当時は、出せるものは全部出したいという感覚だった。
「私、ずっと『人生を棒に振れ』と思っていて。リングが生きる場所でいいやって。当時、全部がうまくいってなくて、『なんのために生きてるんかな?』ってずっと思ってたけど、プロレスを一生懸命やっているとみんなが褒めてくれるし、それが生き甲斐にもなっていた。だからもう、それ以外はどうでもよかったんですよね」
目の前のファンに対して、すがるような思いでプロレスをしていた。しかし今は、違う。
「世界規模で見て、人が面白いと思ってくれることをしたい。そうなると、表現の仕方とかも変わってくるんですよね。たとえば(コロナ禍の前から)リップロック(キス)とかもしなくなったし、使う言語も、SNSでは英語をよく使っています」
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