バレエとアイドルで感じた絶望。女子レスラー中野たむは劣等感と闘い続けた

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

■『最強レスラー数珠つなぎ』女子レスラー編
「宇宙一かわいいアイドルレスラー」中野たむ 前編

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 筆者はInstagramなんていうオシャレなものとは無縁だったが、「中野たむのインスタはすごい」と聞いてインストールしてみた。中野のアカウントを覗くと、お姫様が住むような白を基調とした部屋で撮った自撮り写真がずらりと並んでいる。ベッドの枕元にはパンダのぬいぐるみが置かれ、ジルスチュアートのドレッサーにピンク色のコスメがまるで商品棚のようにキレイに陳列されている。

 静止画かと思いきや動画であることに気づき、再生すると、喋るでもなく笑うでもなく、ただただゆっくりと髪を撫でたり、上目遣いでかすかに首を傾げたりしている。

「あまりわかり合えないタイプかもしれないな......」

 数日後のインタビューで彼女と一緒に涙を流すことになるとは、この時はまさか夢にも思わなかった。

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女子プロレス「スターダム」で活躍する中野たむ(写真:「スターダム」提供)女子プロレス「スターダム」で活躍する中野たむ(写真:「スターダム」提供) 誕生日が近い中野にジルスチュアートのリップバームを渡すと、「ジル大好きです!」とピョンと跳ねて喜んでくれた。決してわざとらしくなく、しかし自分がどうすれば一番可愛く見えるかを熟知しているかのような動き。さすが、"宇宙一かわいいアイドルレスラー"と呼ばれるだけある。筆者は中野たむの「ピョン」に、一瞬でハートを鷲掴みにされた。

 この可愛い、小動物のような彼女が、リング上で獣のように雄叫びを上げ、激しく髪を引っ張り合い、ビンタしまくるあのプロレスラーと同一人物だとは、容易に想像しがたい。試合では、髪はボサボサ、化粧はぐちゃぐちゃ、顔は真っ赤に腫れ上がる。その姿からは「可愛く見せたい」という気持ちは微塵も感じられず、目の前の相手を仕留めてやろうという殺気だけが伝わってくる。とても動物的な闘いをするレスラーだ。動物的だが、全身から人間の喜怒哀楽がこれでもかと表出する。

「劣等感がすごいんです。情念で闘っています」

 "宇宙一かわいいアイドルレスラー"の劣等感の正体とは――。

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