2020.01.05

阿部詩の「一本を狙い続ける」凄さ。
武器は体幹の強さと抜群の把持力

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • photo by Naoki Nishimura/AFLO SPORT

東京オリンピックで輝け!
最注目のヒーロー&ヒロイン
女子柔道 阿部詩 編

 日本発祥のJUDOが五輪の正式種目に採用された1964年の東京五輪以来、柔道界の顔といえば男子の最重量級だった。

 昭和時代の山下泰裕、斎藤仁に、平成に入れば小川直也や現・男子監督の井上康生──。大男達の肉弾戦はまさしく柔道の最強を決める戦いであり、その頂点に立つ柔道家こそ顔となっていた。五輪の金メダルよりも、無差別で争われる全日本選手権の優勝こそ、柔道家がもっとも憧れるタイトルであった。

兄の一二三とともに東京五輪出場を目指す阿部詩 その一方で、1988年のソウル五輪で公開競技となり、続くバルセロナ五輪で正式種目となった女子は、近年まで最軽量の階級となる48キロ級の谷(旧姓・田村)亮子が牽引した。

 谷が2008年の北京五輪を最後に引退して以降、長く女王として君臨し、一時代を築くような柔道家は現れなかった。だが今、攻撃的な柔道と、愛らしい笑顔で柔道界の期待を一身に背負う女子アスリートがいる。52キロ級の阿部詩(うた)だ。

 2017年11月の講道館杯を男子66キロ級の兄・一二三と同じ高校2年生(兵庫・夙川学院)で制し、翌12月のグランドスラム東京でも初の国際大会優勝を飾った阿部は、高らかにこう宣言した。

「2020年まで、阿部詩の時代を続けていきたいと思います」

 その言葉どおり、五輪イヤーとなる現在まで、日本の女子柔道は彼女が先導してきた。

 2018年はアゼルバイジャンのバクーで開催された世界選手権に初出場し、兄と同日に世界一を達成した。この大会の決勝で対戦した前年の世界王者・志々目愛(ししめ・あい)と、巴投げや寝技を得意とする角田夏実との国内代表争いは当時、熾烈を極めていた。

 阿部は国内ライバルとの相性は悪かったものの、何より相手をしっかり投げきる技術と、海外選手に対する強さが評価され、代表争いをリードしてきた。

 兄と同じ日本体育大学に進学した昨年は、東京開催の世界選手権で2連覇に成功。11月のグランドスラム大阪で優勝すれば東京五輪の代表当確となったが、決勝でアマンディーヌ・ブシャール(フランス)に対外国人選手初黒星を喫してしまう。

「神様からの試練だと思う。東京五輪では、兄と一緒に優勝したい」