祝・国民栄誉賞。謎めいた伊調馨の人柄がわかる「3つのキーワード」 (4ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • photo by JMPA

 そして、最後のキーワードは、「吉田沙保里」だ。

 ふたりは、同じ中京女子大の卒業生。しかも、昨年12月に吉田が退社するまで、同じALSOKに所属する選手だった。初出場のアテネオリンピックから何度も日の丸を背負ってともに戦い、一緒にオリンピック4連覇を目指してきた伊調と吉田は、何かと比べられる。でも、「沙保里さんも、私も、比べられることをまったく気にしていない」と言う。

「今回、国民栄誉賞をいただくことになっても、同等とは思っていません。沙保里さんは成績以上に、人間性において見習わなければならいないことがまだまだいっぱいあります。いつも私に気を遣ってくれて、助けてくれて。尊敬する先輩であり、自分にとってはありがたい存在です」と、感謝の言葉を述べた。

 吉田と伊調は対称的だ。吉田は時間が許すかぎりマスコミの取材や講演などを受け、テレビやラジオにも積極的に出演する。ところが伊調は、練習以外のことで時間を取られ、生活のリズムが崩れることを嫌い、取材などもできるだけ断ってきた。

 会見でも、「取材というか、マスコミが苦手で......」と口にしたが、それでも引き受けたことは真摯に、全力で対応する。インタビューではひとつひとつ丁寧に言葉を選び、撮影でもカメラマンの難しい注文に嫌な顔ひとつせず応じる。形は違うが、本人たちはまだまだマイナーなレスリングを広めようと、自分にできることを懸命にやっているだけ。互いに妬む気持ちもなければ、逆に優越感もない。

4 / 6

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る