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【ボクシング】3冠失敗。なぜ井岡一翔は負けたのか? (2ページ目)

  • 原功●文 text by Hara Isao photo by AFLO

 特に前半は、完全にチャンピオンが試合をモノにしていた。長く速い左ジャブで機先を制し、井岡が距離を詰めてくると、タイミングのいい左右のアッパーを突き上げた。これは、左右のグローブを縦に構え、顔面をカバーする井岡に対しては有効なパンチだった。大きなダメージを与えるまでには至らないものの、挑戦者の意識を防御に向け、攻撃を躊躇(ちゅうちょ)させる効果は十分にあった。現に、井岡は思い切りよく飛び込むことができず、左右の拳はガードに使う場面のほうが多かった。また、圧力をかけて前に出たものの、パンチの数は少なく、後手を踏んだ印象は否めない。3人のジャッジのうちふたりが40対36、もうひとりも39対37で、アムナット優勢とつけたほどだ。スタミナに不安を抱える34歳のチャンピオンは、残りの8ラウンドを互角で乗り切れば勝利が転がり込む計算ができたことになる。

 勝負の分岐点は、この前半にあったといえる。井岡は左ジャブを起点にしてボクシングを組み立てるタイプで、総合力に大差がある場合はともかくとして、序盤から一気呵成(いっきかせい)に攻め立てることは少ない。前半は相手にペースを渡さない程度にやり合い、押したり引いたりしながらボディブローでじわじわと相手にダメージを植えつけ、相手との戦力バランスが崩れる中盤から終盤で引き離す展開が多い。長丁場を意識した、賢く堅実な戦い方といえるだろう。特に相手との力量が拮抗している場合は、その試合運びの巧みさが目立つ。2年前の八重樫東(31歳・大橋ジム)戦や、昨年大晦日のフェリックス・アルバラード(25歳・ニカラグア)戦などは、その典型といえよう。

 ところが今回は、前半で大きく出遅れた。しかも、打開策が見つからないまま、中盤を迎えなければならなかった。アムナットの右ストレートとアッパーの脅威にさらされ、左右のガードを外すわけにはいかない。踏み込みが浅いために、得意のボディブローも十分な効果がみられない。距離が詰まると老獪なチャンピオンにクリンチで攻撃を寸断されてしまう。それでも、序盤の失点を取り戻すために攻めなければならない――そんなジレンマを抱えながら、井岡はラウンドを重ねたはずだ。

 その結果、119対108=アムナット、115対112=アムナット、114対113=井岡、という3人のジャッジにより、井岡の3階級制覇は失敗に終わった。119対108を付けたアメリカ人ジャッジの採点は論外としても、アムナットの勝利は妥当なところであろう。井岡は数発のボディブローを除き相手に明確なダメージを与えることができず、顔面へのクリーンヒットも数えるほどで、大きな山場を作れないまま試合終了のゴングを聞くことになった。前半の攻防で井岡の攻撃力を半減させ、さらに中盤から終盤にかけてクリンチワークを多用するなど、チャンピオンの試合運びの巧さが目についた試合だった。「消化不良」「ごまかされた」という印象も残ったが、それも含めて9歳年長のアムナットが井岡を上回ったといえる。

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