錦織圭「35歳はやっぱりこたえます」 足に抱きつく息子の姿が物語る流れた月日の長さ
3時間近くの死闘を制し、ファンの熱狂と祝福の声を浴びる勝者のもとに、似た面差しの幼児が弾むように駆けていった。
父の勝利を知ってか知らずか、足に抱きつく姿は見る者の心を和ませ、同時に、流れた月日の長さを物語りもする。
錦織圭がBNPパリバ・オープン(インディアンウェルズ)で勝利を得たのは、コロナ禍で開催時期が半年遅れた2021年大会以来。そしてこの大会を最後に、錦織は股関節のケガに始まる長期離脱期に入った。
第一子が誕生したのは、その頃と前後する。成長した息子の姿は、錦織の復活の道のりを映すようでもあった。
錦織圭は4年ぶりにインディアンウェルズで初戦を突破 photo by AFLOこの記事に関連する写真を見る「ここらで勝って、モヤモヤを晴らしたいなと思います」
今大会開幕を目前に控えた日、錦織はそう口にしていた。
今季の錦織は、開幕戦の香港オープンで準優勝という最高のスタートを切る。ただ、その帰結として急上昇したランキングは、出場可能な大会が増え、スケジュールの過密化という副産物をもたらした。疲労を抱えたまま出場した直近のダラス・オープンとデルレイビーチ・オープンの2大会では、いずれも初戦敗退を喫する。
「香港でいいテニスして、そこから疲れもあり、全豪オープンではちょっと体がもたなくて......。デルレイビーチでも痛みがあり、なんかフルでプレーできなかったので」
そのような、本人曰く「先週までボロボロ」だった状態から復調の兆しが見えたのは、ここ数日。練習でも好感触をつかみ始めたなかで、口にしたのが前述の意気込みである。
錦織が初戦で当たったハウメ・ムナル(スペイン)は、守備力に定評のあるストローカー。昨年9月にクレーコートのATPチャレンジャー大会で初対戦し、6-2、4-0のリードから逆転負けを喫した相手でもある。
戦いの舞台をATPマスターズに移した今回の再戦でも、似た数字がスコアボードに刻まれていった。
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著者プロフィール
内田 暁 (うちだ・あかつき)
編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。