錦織圭「人生で一番悔いの残る」記憶と再び向き合う チリッチとの激闘から10年 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【同世代のチリッチは思い入れのある選手】

 迎えた今年8月末。錦織がツアーの下部大会にあたるイタリアのATPチャレンジャーに出ていた頃、チリッチもまた、スペインのチャレンジャーで復帰戦を戦っていた。最初の大会は2回戦敗退。復帰2大会目のチャレンジャーは3回戦で敗れる。

 そうして先日、中国・杭州市開催のATPツアー大会に出場したチリッチは、2回戦で西岡良仁、3回戦では内山靖崇に勝利。その後も駆け上がるスピードを緩めることのないチリッチは、決勝戦で地元期待のジャ・ジジェンを破り、一気に頂点へと駆け上がったのだ。

 復帰からわずか3大会目、世界の777位で掴み取ったキャリア21度目のタイトル。それは「ATPツアー史上、最も低いランキングでのタイトルホルダー」という、殊勲の記録を伴った。

 この杭州でのチリッチの戦いを、錦織はどのような思いで追っていただろうか。

「そうですね......復帰というか、プレーを戻してくるのは早いなと思いました」と、錦織が言う。

「ウッチー(内山)との試合も少し見てましたし、西岡選手との試合を見ても、プレーの質も高い。ミスはあるけど、プレーの速さや球の速さ、サーブももちろん顕在ですし、そこらへんのプレーは戻ってくるのが早いなと、率直に見ていて感じますね」

 それら思いの根底には、チリッチに抱く盟友的な共感もあるのだろう。

「たしかに思い入れのある選手です。(ミロシュ・)ラオニッチだったり、チリッチらは、大きな場面で戦うことが多かった。ほぼ同世代ですし、同じ境遇を最近味わっている選手でもある。そこらへんの選手より、気持ちは入るかもしれないですね」

 思い出を紡ぐようにぽつりぽつりと、錦織は篤実な口調に、熱い想いを込めていった。

 一方で自身のテニスに関しては、多少のもどかしさを覚えているという。それは、急速に取り戻しつつあるかつての感覚と、対戦相手のレベルの変化の間に生じたジレンマでもあるようだ。

「ここ2試合、けっこうテニスがよかった分、ちょっと焦りがプレーのなかで出てしまっているなと感じていて」

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