錦織圭「人生で一番悔いの残る」記憶と再び向き合う チリッチとの激闘から10年 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【勝っていたら天狗になっていた可能性も】

 その「焦り」の正体にも、あたりはついている様子。

「言い訳ではないですけど、チャレンジャーに出て200〜300位の選手と試合をすると、やはりツアーレベルの選手に比べてボールも遅いので、自分から攻めないといけないし、実際に攻められちゃう。それがちょっとクセになり、自分のなかで攻め急ぐ気持ちが出たのかなと。あらためて、この2試合を通して感じました」

 そのように現状を踏まえたうえで、「一回、落ち着いてプレーしたいなと考えながら、この何日間、しっかり練習できている」と、自分に言い聞かせるように言った。

 幾度もケガに見舞われ、コートから離れるもどかしさや絶望を、彼は幾度も味わってきた。その行程では、懐疑的な周囲の声も、おそらくは耳にしてきただろう。

 それでも錦織は、「希望を失わずにやりたいな」と、柔らかな声に渇望をにじませた。その希望が、手を伸ばせば掴めそうな距離に来たこの時に、日本でチリッチと足跡が交錯するのも、何か宿命めいたものがある。

 人生で一番悔いの残る試合を問われたら、「たぶん、あの試合を選ぶと思います」と錦織は言った。ただ、言葉はここで終わりではなく、彼の思いはこう続いていく。

「でもなんか、負けたことに対して、すごい悔やんでいるとかではないんです。もしあれに勝っていたら、逆に天狗になって、その後、悪くなっていた可能性もありますし。自分のなかではしっかりがんばって結果も出してきたんで、あの負けが引き金になり、モチベーションになってくれたところもあります」

 そのモチベーションに導かれ至った現在地を、そしてその先を、「あの試合」の再戦で確かめにいく。

著者プロフィール

  • 内田 暁

    内田 暁 (うちだ・あかつき)

    編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。

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