小田凱人が「憧れの存在」を破って全豪OP初優勝「あなたのようなバックハンドが打ちたいと思い練習してきた」 (2ページ目)

  • 内田 暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【13歳の初対面「俺、ヒューエットと打って来たぜ」】

「あなたを初めて見たのは、僕がまだ13歳の時だった」

 全豪オープンの優勝セレモニーで、トロフィーを抱えた小田は、ヒューエットに顔を向けて続けた。

「あなたはすでに世界のトップ。僕が練習していたその横で、あなたはボールを打っていた。英語ができなかった僕の代わりに、日本の選手が声をかけてくれて、一緒に練習もさせてもらった。あなたのようなバックハンドが打ちたいと思い、僕は練習してきた」

 小田がヒューエットと初めて出会ったその大会とは、福岡県飯塚市で開催されている飯塚国際車いすテニス大会(JAPAN OPEN)。40年近くの歴史を誇り、「天皇・皇后杯」の名も冠する男女共催の国際大会だ。

 そのジュニア部門に参加した時、小田は世界中のスターたちを間近に見た。国枝慎吾、ステファン・ウデ(フランス)、20歳で世界1位に上り詰めたヒューエットも、それら綺羅星のひとり。

「初めて会った時の興奮だったりワクワク感は、今でも思い出すとうれしかったりする」

 コート上の王者の面差しとはまた異なる、無邪気な少年らしい笑みを浮かべて彼が言った。

 練習コートのとなりでボールを打つヒューエットのインパクト音を耳にし、ウズウズしていた小田の心身の高ぶりを、おそらくは一緒に練習していた三木拓也は察したのだろう。その三木の声がけにより、小田はヒューエットとボールを打つ。

「もう、それが本当にうれしくて。会場に来ていた友人に『俺、ちょっとヒューエットと打って来たぜ』と言ったり、そんな感じで」

 恥ずかしさとうれしさが混じる笑みを顔中に広げて、小田はその日の出来事を回想した。

 何かに駆り立てられるように、世界の舞台を、そしてトップを目指す小田に「なぜ、そこまで急ぐのか?」と尋ねたことがある。その時の彼は、きっぱりと明言した。

「僕が車いすテニスを見た時のトップ選手たちと、同じ舞台に早く立って戦いたいと思っていた。年長者の選手も多かったなかで、早く強くならなければ、間に合わないかもと思っているから」

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