錦織圭「あ、負けるな...」からの逆転劇。あきらめた時に割り切ったこと

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「やっぱ......テニスって、めんどうくさいですね」

 自嘲気味な笑みを口の端に乗せ、錦織がポツリと言った。

 全仏オープン初戦の相手は、予選あがりのアレッサンドロ・ジャネッシ(イタリア)。ランキングや経験的には、錦織が圧倒的に上回っているのは明らかだ。

錦織圭は全仏オープン初戦から苦戦を強いられた錦織圭は全仏オープン初戦から苦戦を強いられたこの記事に関連する写真を見る しかし試合は、もつれにもつれる。初対戦のサウスポーの球質に、心地よく打つことを許してもらえなかった。

 それでも解決策を模索し、おぼろげながら答えは見えていたが、それを身体で表現するのが難しい。ほんの少しの自信の不足が、心を守りに引きとどめる。

「めんどうくさい」の言葉には、4時間4分に及ぶ死闘のなかでの、心身のせめぎ合いの変遷が塗り込められていた。

 この日が31歳の誕生日であるジャネッシは、ATPチャレンジャー(ツアー下部大会郡)ではクレーで3度優勝している赤土巧者。ところが不思議と全仏オープンとは縁が薄く、本戦出場は今大会が初めてのこと。錦織とネットを挟み立つローランギャロスのコートは、彼にとってキャリア最大の舞台だった。

 そのキャリアのすべてをぶつけるかのように、ジャネッシは立ち上がりから自身のテニスを解放した。左腕から放たれるサーブはワイドに鋭く切れ、セカンドサーブやフォアハンドのストロークは高く跳ねる。

 対する錦織は、軽快にコートを駆け、ボールに飛びつき、多彩な球種を左右に打ち分けた。その姿は一見、躍動的に映る。だが、当人にとっては「あれだけ高い球を打ってくる選手はなかなかいないので、それに手こずった」という状態だった。

「ボールに速度はないんですが、それを見逃すと後ろまで跳ねてくるし、ライジングで打つことも難しかった。そこの判断が、今日は試合中にできなかった」

 繰り返し高い打点で打たされることで、足や腰への負担も早々に蓄積する。赤土に照り返された太陽の熱に、じりじりと体力を削られもしただろう。

 セットカウントでは常に先行しながらも、そのつど追いつかれ、もつれこんだファイナルセット。疲労の色が隠せぬ錦織は、この最終局面で先にブレークを許した。

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