錦織圭、実戦不足の代償は大きかったが
収穫あり。「焦っても仕方ない」
◆「錦織圭と父との愛情物語。25年前のプレゼントと息子への願い」はこちら>>
「もーう! 集中!!」
自らを叱責する声が、コートサイドにまではっきりと聞こえてきた。
セットカウント1−2とリードされ迎えた、第4セットの終盤。リターンを打ちそこなった錦織圭は、顔を一瞬しかめて声を上げると、すぐに表情を引き締めて腰を深く落とし、次のリターンに備え構える。
その次のポイントでは、相手サーブをしっかりと返し、ラリー戦で打ち勝った。続くブレークポイントでは、フォアハンドの鋭いリターンで、相手のフォアを打ち破る。
試合終盤に足が止まってしまった錦織圭 自分のプレーに覚える一定の手応えと、思うようにいかない局面も多々あるもどかしさ。それでもなんとか勝利を......いや、1ポイントでも多くもぎ取りたい、という執念が凝縮されているかのようなゲームだった。
実際にこの日の錦織は、これらの情動すべてを胸に抱えてコートに立っていたようだ。
最初のゲーム、いきなり3本連続でフォアをミスし、ブレークを許す苦しいスタート。初戦に続く出足のつまずきが影響し、第1セットは落とした。
しかし、その後は徐々にフォアの逆クロス、さらにバックのダウンザラインなど、錦織らしいストロークや展開力も見られ始める。
第2セットは6−2で奪い返し、第3セットは先にブレークを許すも追いつく。得意の土俵ともいえるタイブレークへと持ち込んだ。
そのタイブレークで、錦織はポイント連取の好スタートを切る。だが、ここから相手がフォアの豪腕で攻め立ててきた。
対戦相手のステファノ・トラバグリア(イタリア)は、10年ほど前からアルゼンチンを拠点にし、クレーで最も戦績を残している。だが、もともとは速いサーフェスでの早い展開を得意とする選手だ。
19歳の時にガラスで右手を切る大ケガを負い、その後遺症は今でも完全に消え去った訳ではない。一時はテニスをあきらめかけたという。
トラバグリアはそれら試練を乗り越えて、10年に及ぶプロキャリアを送ってきた。しかしながら、まだグランドスラムの3回戦以上の経験はない。
1 / 3