「大坂なおみのマスク」に日本の多くの選手が沈黙。高橋美穂「残念です」 (2ページ目)

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko

 この経緯と結果を受けて、筆者の知る上でも国内外の複数のメディアの記者が日本のトップアスリートたちに冒頭の問いに対するコメントを取りに向かった。ところが、アプローチをすると、ほとんどの選手が無回答だったという。是でも非でもなく沈黙なのだ。

 その結果に対して「残念ですね」と敢えて声を上げたオリンピアンがいる。バルセロナ五輪のテコンドー日本代表であった高橋美穂である。

大坂なおみの「マスク」について語った高橋美穂大坂なおみの「マスク」について語った高橋美穂
 昨年、使途不明の遠征費用や、ほとんどの代表選手が「行く意味がない」と参加ボイコットを表明した不可解な強化合宿のあり方など、問題を指摘されたテコンドー協会の正常化に向けて、決然と声を上げた前アスリート委員長である。

 責任を問う意味でテコンドー協会の会長以下、すべての役員の総辞職を主張するも6時間以上に渡って紛糾した理事会での恫喝を受け、過呼吸(迷走神経反射)で倒れ、救急車で搬送された音声がテレビで流されたためにその名前を知られることとなった。

 選手のための発言を続けていた高橋は、テコンドー協会が新体制に移行する際に自らも身を引いた。アスリート委員長も後輩に禅譲したが、プレイヤーズファーストを貫いて親身になって守ってくれた高橋の元には、今も現役選手たちから多くの声が集まる。

「大坂さんのことをどう思うかと聞かれて、トップアスリートならば、言葉がないのではなくて、誰もが真剣に考えています。なぜならばオリンピアンならば、我々がスポーツをする意味、それは人権の問題の解決に向かうことだとしっかりと学んでいるからです。

 私が現役の頃にはなかったのですが、現在JOC主催でオリンピックの歴史や精神についての勉強会が行なわれています。午前中はオリンピアン精神について、それこそ古代の休戦協定の頃から学びます。OBやOGも積極的に参加しています。

 その研修の過程で絶対的に出てくるのが、人権、差別、平和についての講義です。オリンピックはいかなる差別をも許さない。FIFA(国際サッカー連盟)もレイシズム(人種主義)へのゼロ・トレランス(不寛容)を打ち出しています。

 スポーツの本来の意義は他国の選手とメダルの数を争うのではなく、すべてのアスリートは差別や迫害と闘う。そして、オリンピアンにはスポーツとこのオリンピズムを普及させる社会的責任があると教わるのです。

  今、振り返ってみても大坂さんが発信したことは、いわゆる政治ではなく紛れもなくその人権に関しての大切なメッセージです。東京五輪は迫害を受けた難民のチームを出場させることを宣言していたわけで、それと同じ地平のことだと思います」

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