2020.09.12

大坂なおみ、数字に現れなかったすごさ。
「冗談みたいなレベル」の試合を制す

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

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「信じがたいくらいにハイクオリティの試合だ!」
「冗談みたいなレベル」

 現地取材のできない今大会において、各国の記者や関係者たちが情報交換のため設置したグループチャットに、驚嘆の声が飛び交った。

全米オープンで2年ぶりに決勝進出を決めた大坂なおみ 全米オープン準決勝の、大坂なおみ対ジェニファー・ブレイディ(アメリカ)。

 降雨のため屋根が閉じられたセンターコートに観客の声はなく、風や日差しなどの不確定要素が入り込む余地もない。

 精神を研ぎ澄ませたふたりのアスリートが放つボールは、鋭く、深く、常にライン際をピンポイントでとらえていく。

 タイブレークに至った第1セットで、両者ともにブレークはなし。ブレークポイントすらブレイディがわずかにひとつ手にしただけで、大坂にはチャンスすら訪れなかった。ウイナー数ではブレイディが4本上回り、エラーの数は大坂が7本下回る。

 ふたりとも、プレーに揺らぎはない。精神的な乱れも皆無。緊迫感ただよう高質なその戦いで、第1セットを手にしたのは、2度目の全米オープンタイトルを狙う大坂だった。

 だが、セットを奪取した第4シードに、安心感はなかったという。

「主導権を握っている感覚は一切なかった。とにかく自分のやるべきことに徹しただけ。サービスゲームをキープし、タイブレークでも自分のサーブでポイントを取る。それができたけれど、正直、打ち合いを支配できたと思えた瞬間はまったくなかった」

 それが第1セットを終えた時、大坂が感じたことだった。

 事実、第2セットに入っても、両者のプレーの質は落ちない。その高質な打ち合いで、わずかなほころびを見つけ、均衡状態を打ち破ったのはブレイディだ。

 スピンをかけた重いフォアを左右に打ち分け、大坂を激しく振り回す。やや肩に力の入った大坂のフォアがラインを割り、第8ゲームでこの試合初のブレークが生まれた。

 かくして第2セットは、大学あがりの成長著しい25歳の手に渡る。