大坂なおみ「考えても仕方ない」。元コーチが敵陣営も雑念なしで勝利

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

◆「当時18歳の大坂なおみインタビュー」の記事はこちら>>>

 大坂なおみにとって、"敬意"は自らを成長させる栄養素であり、ネットを挟む対戦相手を破る源泉にもなるようだ。

 2年半前、セリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)の元ヒッティングパートナーであるサーシャ・バインが大坂のコーチに就任した時、彼は大坂のモチベーションを上げるため、セリーナが自らを鼓舞するために認(したた)めたメモを見せたことがあったという。

ソーシャルディスタンスを確保しながら対戦相手と挨拶ソーシャルディスタンスを確保しながら対戦相手と挨拶「憧れのセリーナの言葉を見て、なおみもやる気が出たようだよ」

 バインはそう言い笑ったが、大坂にその"セリーナ・メモ"の内容を尋ねた時、彼女は眉根を下げるいつもの少し困ったような表情を浮かべ、「正直、よく覚えてないわ」と答えた。

「私の場合、いいプレーができている時の精神状態は、相手に敬意を払っている時。セリーナの方法は、私にはうまく当てはまらないと思ったから」

 はたして大坂が、セリーナのメモの内容を本当に覚えていなかったのか否か、それはわからない。単に、自分が公(おおやけ)にすべきことではないと思った可能性もある。いずれにしても言えるのは、それは、大坂の思考法にはそぐわないものだったということだ。

 新型コロナウイルスによるツアー中断後、初の参戦大会となるウェスタン&サザン・オープンの3回戦。

 対戦相手のダヤナ・ヤストレムスカ(ウクライナ)に鮮やかなウイナーを奪われた時、大坂はうなだれでも苛立ちを露わにするでもなく、ラケットの面を手で軽く数回叩く、拍手のジェスチャーを見せた。

 20歳のヤストレムスカは、鋭いサーブとパワフルなストロークを武器に、ランキング25位まで駆け上がってきた成長株だ。そしてコーチは、大坂の元コーチであるバイン。大坂の長所も弱点も熟知する、ヤストレムスカにとっては格好の参謀である。

 ただ大坂は、そのような雑念は頭に入れないようにしたという。

「自分でコントロールできないことを考えても仕方ない。私は、私がやるべきことに集中した」

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