大坂なおみ、臆病だった16歳からの成長。自らの言動でテニス界を動かす

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

◆「当時18歳の大坂なおみロングインタビュー」はこちら>>>

 試合のコートに立つ大坂なおみの心には、今大会3試合目にして初めて、ネガティブな感情や思想が渦巻いていたという。

「USオープンの開幕も迫っているのに、こんなに試合してケガでもしたらどうしよう」

「すごく疲れている。久しぶりの大会で、何試合も続けてプレーしたから身体中が痛い」

大坂なおみはコンタベイト戦後、大会棄権を表明した大坂なおみはコンタベイト戦後、大会棄権を表明した ミスショットを打つ度に、「こんなボール、ミスするはずないのに......」と思いつつも、その都度言い訳が次々と頭に浮かび、自分を律することもしなかったという。

 第1セットを失い、第2セットも最初のサービスゲームで2度のダブルフォルトを犯してブレークされる。さらにはゲームカウント0−2からのサービスゲームでも、ダブルフォルトもあってブレークの危機に瀕した。

 もし、このゲームを奪われていれば、事実上の勝敗は決しただろう。あるいは以前の彼女なら、そうなっていたかもしれない。

 ただ、このコロナ禍による6カ月の間に「人間的に成長することを最も心がけてきた」という彼女は、ネガティブな思想に飲み込まれることを拒絶した。

「自分を表現することを恐れず、多くの人と触れ合うこと」を通じて世界が開けたと言っていた彼女は、「後悔しないで済むように、ベストを尽くそう」と自分自身に言い聞かせる。

 センターに叩き込むサービスエースでブレークポイントをしのぐと、続くポイントはバックハンドウイナー、そして最後もエース級のサーブで、大坂がこのゲームをキープした。

 すると、昼夜が反転したかのように、このゲームを機に試合の様相は一変する。

 大坂は精力的にコートを駆け、劣勢のラリーでも粘り強くボールを打ち返し、ポイントを決めては拳を強く握りしめた。強打のみならず、スライスなども織り交ぜて、相手のリズムも崩していく。

 敗戦間際まで追い込まれていたのが嘘のように、コートを支配する大坂が9ゲーム連取の快走。対戦相手のアネット・コンタベイト(エストニア)も終盤にブレークバックして食い下がるが、最後に再び突き放し、4−6、6−2、7−5の逆転勝利をもぎ取った。

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