大坂なおみが抱えていた不安。それでも「負けることは許されない」
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眠れぬ夜をやり過ごしながら、彼女は、朝を迎えたという。起きた時には、全身が汗に濡れていた。胃はキリキリとひどく痛む。
「理由は、精神的なものだとわかっていた」と彼女は言う。
メルテンスを破って決勝進出を果たした大坂なおみ「今日の試合は、絶対に勝たなくてはならない。負けることは許されない」
頭の中で、そんなフレーズが繰り返し響く。
「先日に夜に出した声明を、自分自身で裏づけたかった」
ストレス、プレッシャー、不安......。それらを一身に背負い込んだ訳は、この一点にあったという。
大坂なおみが言及する「声明」とは、ウェスタン&サザンオープン期間中の8月26日に、彼女がソーシャルメディアに投稿した文面を指している。
この日、NBAを中心に米国スポーツ界に広がっていた、反人種差別運動の一環としてのストライキ----。その動きに賛同した大坂は、自らも「問題提起するためにプレーしない」との意思表明をした。
この大坂の決意とスポーツ界の潮流を、男女テニスツアー及び全米テニス協会も重く捉え、翌27日はすべての試合を順延に。運営サイドの支持も得て大会に残ることになった大坂は、かつてない重圧を背負いながら、エリーズ・メルテンス(ベルギー)の待つ準決勝のコートへと向かっていた。
心の揺らぎは、サーブのトスを上げる指先を狂わせただろうか。この試合での大坂は、トスを幾度もやり直し、無理してサーブを打ってはボールはネットにかかり、入れにいけば叩かれた。
それでも第1セットは、まだエンジンが温まりきらない相手のミスにも助けられ、6−2で大坂が先取。ただ、サーブの調子がよくないことは、心に引っかかっていたという。
その不安要素は試合が進むにつれ、いっそう表面化していった。第2セットの第2ゲームをブレークした大坂だが、直後のゲームを奪われる。サーブの確率が落ちていることには本人も気づいていたが、修正の手立てが見つからない。
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