大坂なおみが抱えていた不安。それでも「負けることは許されない」

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

◆「当時18歳の大坂なおみロングインタビュー」はこちら>>>

 眠れぬ夜をやり過ごしながら、彼女は、朝を迎えたという。起きた時には、全身が汗に濡れていた。胃はキリキリとひどく痛む。

「理由は、精神的なものだとわかっていた」と彼女は言う。

メルテンスを破って決勝進出を果たした大坂なおみメルテンスを破って決勝進出を果たした大坂なおみ「今日の試合は、絶対に勝たなくてはならない。負けることは許されない」

 頭の中で、そんなフレーズが繰り返し響く。

「先日に夜に出した声明を、自分自身で裏づけたかった」

 ストレス、プレッシャー、不安......。それらを一身に背負い込んだ訳は、この一点にあったという。

 大坂なおみが言及する「声明」とは、ウェスタン&サザンオープン期間中の8月26日に、彼女がソーシャルメディアに投稿した文面を指している。

 この日、NBAを中心に米国スポーツ界に広がっていた、反人種差別運動の一環としてのストライキ----。その動きに賛同した大坂は、自らも「問題提起するためにプレーしない」との意思表明をした。

 この大坂の決意とスポーツ界の潮流を、男女テニスツアー及び全米テニス協会も重く捉え、翌27日はすべての試合を順延に。運営サイドの支持も得て大会に残ることになった大坂は、かつてない重圧を背負いながら、エリーズ・メルテンス(ベルギー)の待つ準決勝のコートへと向かっていた。

 心の揺らぎは、サーブのトスを上げる指先を狂わせただろうか。この試合での大坂は、トスを幾度もやり直し、無理してサーブを打ってはボールはネットにかかり、入れにいけば叩かれた。

 それでも第1セットは、まだエンジンが温まりきらない相手のミスにも助けられ、6−2で大坂が先取。ただ、サーブの調子がよくないことは、心に引っかかっていたという。

 その不安要素は試合が進むにつれ、いっそう表面化していった。第2セットの第2ゲームをブレークした大坂だが、直後のゲームを奪われる。サーブの確率が落ちていることには本人も気づいていたが、修正の手立てが見つからない。

1 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る