大坂なおみ、臆病だった16歳からの成長。自らの言動でテニス界を動かす (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 精神面の充実ももちろんだが、ツアー中断中に抜本的な技術改革を行なったバックハンドのスライスやボレーを駆使し、手持ちのカードの豊富さで引き寄せた勝利でもある。

「試合のなかで、ネガティブな自分を打ち消せたことがうれしい」

 試合後の彼女は、笑顔で自身の成長を噛み締めた。

 その勝利会見から、およそ4時間後......。

「自分を表現することを恐れない」彼女は、ツイッターやインスタグラムに、ひとつの声明文をアップする。

「こんにちは、多くの方がご存知のとおり、私は明日、準決勝を戦う予定でした。しかし、いちアスリートである前に、私は、ひとりの黒人女性です」

 そのような書き出しで始まる長文は、以下のように続いていく。

「黒人女性として、私のプレーを見てもらう以上に、今は注目してもらうべき大切な問題があると感じています。私が試合をしないことで、劇的な変化が起こるとは思っていません。それでも、白人が主流であるこの競技で議論を始めるきっかけになれば、それは正しい方向へと踏み出す一歩になるはずです」

 それは、ウィスコンシン州で黒人男性が警察官に撃たれたことへの抗議として、準決勝をボイコットするという決意表明だった。

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 ボイコットによる問題意識の喚起は、大坂の準々決勝が行なわれた現地時間26日に、アメリカのスポーツ界で次々に起こった一大ムーブメントである。

 起爆剤となったのは、ウィスコンシン州を本拠地とするNBAのミルウォーキー・バックスが、プレーオフの試合を辞退したこと。複数の選手の主張と、それに伴うボイコットを、チーム、さらにはNBAも支援し、この日に予定されていた3試合すべてが延期となった。

 このNBAの動きは他競技にも伝播し、WNBAやMLBも予定していた試合を中止。NHLやMLSも追随して、人種差別に抗議する声明文を発表した。

「テニスでも、議論を始めるきっかけになれば......」という大坂の願いは、決意表明の直後から現実となっていく。

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