世界トップのトレーナーが語る、大坂なおみが持つ「日本人の特性」

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Nakamura Yutaka

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 その時、中村豊は対戦相手のファミリーボックスから、大坂なおみのプレーを見ていた。

 2018年3月、米国カリフォルニア州開催のBNPパリバ・オープン1回戦。センターコートのナイトセッションに組まれたのは、大坂なおみとマリア・シャラポワ(ロシア)のカードである。

「チームなおみ」の一員となった中村豊トレーナー「チームなおみ」の一員となった中村豊トレーナー 時に大坂は、次期女王候補と目される20歳の新鋭。片やシャラポワは、出場停止のブランクや肩の痛みからの完全復活を目指す元女王。

 そのシャラポワのトレーナーとしてファミリーボックスに座る中村に、20歳のチャレンジャーは鮮烈なインパクトを残した。

 真っ先に感じたのは、急成長の季節に運や好機が重なった者が放つ、特権的な輝きと勢い。それにもかかわらず、コート上のたたずまいは淡々としていて、表情や仕草からは感情を読み取れない。

 それら中村が感じた大坂の凄味は、ネットを挟むシャラポワが覚えた圧迫感でもあっただろう。スコアは6−4、6−4で挑戦者の完勝。

「すごい存在感の選手だ」

 それが、大坂が中村に深く刻んだファーストインプレッションだった。

 それから2年経った、今年6月----。中村のもとに、大坂のマネージャーから連絡が入った。

「なおみの専属トレーナーになってくれないか?」

 それが、連絡の趣旨である。「専属」とはすなわち、中村が得ていたIMGアカデミーのフィジカル&コンディショニング・ヘッドコーチの職を辞することを意味していた。

「数日、考えさせてほしい」

 さすがに、即答はできなかった。

 ただ、そう返事をしながらも、この時に中村の心は、ほぼ決まっていたという。2年前に目の前で見た、シャラポワ戦での大坂の存在感が忘れ難かったからだ。

「今のテニス界で突出した存在は、セリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)にシャラポワ、ロジャー・フェデラー(スイス)とラファエル・ナダル(スペイン)、そしてノバク・ジョコビッチ(セルビア)の5人。そのレベルに加わる第一候補が、大坂なおみだろう」

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